「あなた、ずっとあの女の子を見ていたわよね」

「……気になるんだ」

 じっと見られている感じがして、気持ちが窮屈になってきたので目を逸らしながら僕は答えた。

「でしょうね」

 彼女の言い方は、何かを知っていそうな言い方だった。そして、どうやら言葉が全て通じているようだった。

「触れたいんだ。手を繋ぐだけでいい」

 言うつもりは無かったのだけれど、心で思っていた事を口にしていた。

「繋げばいいじゃない」

「無理なんだ。だって僕は、カラス」

 そう、無理なんだ。言葉にしてみて、改めて無理な事なのだと実感した。手を繋ぎたい。こんな風に会話をしてみたい。けれども僕は、人間じゃない。

「うーん……分かったわ! 人間にしてあげる」

「えっ?」

 突然何を言い出すんだ。人間になれる訳がないじゃないか。

「ふふっ。それが出来るのよ私は」

 心の声が聞こえたのか?
 彼女は誇らしげに返事をしてきた。

「でも人間の姿でいられるのは一年間だけ。あと、変身すると記憶が曖昧になるかもなの。どうする?」

 突然言われて、僕はすぐに答える事が出来なかった。

「考える時間をください」

「分かったわ。明日また同じ時間にここに来るわね」

 約束をして、次の日に結論を出すことになった。

 一年間だけ。しかも記憶が曖昧になるかも。どうする?どうすればいいの?

 僕の事を心配して、お迎えに来てくれたカラスの姉さんは、無言で頷いた。