「私の事、忘れないでね」
「絶対に忘れない。忘れるはずがない」

 朝、桜の花が開いた事をお父さんから聞いた。玄関で私達は抱き合った。

「好き」って私が言うと「僕も好き」って、彼が答えてくれた。泣いちゃうから一回だけ言った。

 みんなに見られると、別れが惜しくなって桜の花を見られなくなるかもしれないから来ないでねって大翔は言った。
 
 私達は、ここでお別れする事にした。

「じゃあ、さよなら」

 大翔は桜の木に向かっていって、私達は彼の背中を見送った。


…………。

 ただだまって見送る事は出来なかった。
 私は、彼の背中を追いかけた。