気がつけば雪が降っている季節になっていて、北海道を何周もとうさんが運転している車でぐるぐるしている。

 気持ちに余裕が出来てくると、周りの人の気持ちが気になってきた。

 とうさんは沢山「楽しい」って言葉を言ってくれた。帰りたくないって言ってから、ずっと嫌がらずに一緒に旅をしてくれている。とうさん、そろそろ咲良達に会いたいだろうなぁ。

 八年前の花火大会の日、僕を崖から落とした蓮。僕がカラスから人間になってから彼は、本物の兄さんのように、昔よりも僕を大切にしてくれている。

 そして、咲良。花火大会の日、いきなり僕が姿を消して、どう思ったのだろうか。
 毎日、彼女の事を考えている。泣いてないかな? 笑えているかな? 外に出たりしているの? とか……。 

 とうさんは、僕の気持ちがこうなる為に一緒に旅をしてくれていたのだろうか。

 過去を思い出してからは、何故僕がこんな目に合わないといけないのか? だとか、人間でいられなくなる焦りだとか、悪い感情で押しつぶされてしまっていた。

 花ちゃんは最期までずっと周りの事を考えていた。幼い頃の記憶の中では、花ちゃんはいつも優しく僕を見てくれていた。僕は自分の気持ちでいっぱいいっぱいだ。でもせめて、幸せな気持ちで人間を終わりたい。

「とうさん、僕、そろそろ帰りたいな。とうさん手作りのパンを食べたい」

 僕はとうさんから電話を借りて、自ら蓮に「そろそろ帰るね」って電話をした。家に戻ったら、みんなに全てを話そう。僕が人間でいられる事に期限がある事も。

 桜は四月末から五月の初め頃に花を咲かせる。

 僕がカラスに戻るまで、あと半年もない。