「話せば長くなるんだけど、良いかな?」
「うん。聞きたい、です」
「それ以外の話も聞いて欲しいんだ」

 花丸木さんは箸を置いた。

「あの桜ね、僕が愛している人なんだ」
「ん?」
 突然何を言い出すんだ、花丸木さん。

「あ、いきなりそんな事を言っても訳が分からないね」

 僕は素直に頷いた。

「きちんと言葉を直すと、僕が愛していた人が大切に育てていた桜の木なんだ」

 花丸木さんはその愛していた人の事を“ 花ちゃん ” と呼んでいた。実際の名前は夢菜さんというらしいのだけど。物凄く花が大好きな女性だったから、そう呼んでいたらしい。花丸木さんと花ちゃんは親のいない子達が集まる施設で育った。血は繋がってはいないけれど兄妹のように。

「お互い施設を出た。そして、再会した時、彼女は僕の息子と同じ年齢の、一歳の女の子を連れていた」

 花丸木さんは目を細めた。

「綺麗になっていて、強くなっていて。僕は彼女に惚れた。昔から良いなとは思っていたけどね。僕達はあっという間に恋に落ち、お付き合いを始めた。そしてすぐに、今住んでいる家を買った」

「あの家、庭大きいよね。花植えるため?」

「そう、花ちゃんにどんな家が良いか聞いたら、大きくなる桜の木も、他の花も育てられるくらいの、庭が広いお家が良いなって。ちょうど良い土地が見つかって良かったよ」

 ちなみに、ほんの少し離れた場所にも花丸木さんが所有している土地があり、そこに桜の木が植えられている。