「あの日、咲良が花火に夢中になっている間、俺達は花火に飽きて森の中をさまよっていたんだ」

 蓮は車のエアコンを全開にし、話を続けた。

「奥に進むと、いつも落ちないように気をつけている崖があるしょ? 軽く押したつもりだったのに、落ちてしまったんだ」

「えっ? 蓮が落としたの……」

「本当に、落とすつもりはなかったんだ。そして、逃げた」

「……」

「落としたはずなのに……」

 話の途中で窓をノックする音がした。お父さんがいて、蓮は窓を開けた。

「いたよ!」

 そう言うとお父さんは大翔の元へ再び向かった。

「咲良、大翔いたって!」
「うん、聞こえてる……」
「とりあえず、大翔の所いこっか」
「うん」

 
 大翔はさっき、私を睨んでいた。再び彼と顔を合わせる事に乗り気ではなかったけれど、とりあえず着いていった。

 大翔の背中が見えた。背中が、話しかけるな!と語っているようだった。

「蓮、私先に帰るね。」
「えっ?」
「疲れたから、色々と」
「じゃあ、俺も帰る」

 お父さんと何か話している大翔。彼が振り返る事はなかった。
 
 その日は帰ってこないで、次の日の朝

「ちょっと僕達、旅に行ってくるね」

ってお父さんからのメッセージが蓮に届いて、私達の目の前からふたりはいなくなった。