「ちょっとだけ、ひとりになりたい」

 彼はそう言って森の中から出ていった。私は後を追った。けれど彼は、人混みの中に溶け込んで、溶け込みすぎて、見えなくなった。

「待って!」

 ただ消えてゆくその姿を私は呆然と見ていた。引き止めないと!って思い、声を出した時にはもう遅かった。

 どうしよう。もう会えない気がした。

 花火の音も、人混みも。景色全てが怖くなった。

 ――さっきまで平気だったのに。

 いけない。このままじゃあ、私、この夜の暗闇のように心がなってしまいそう。外に出るべきじゃなかった。とにかく怖い。ふらふらしながらさっきまでいた場所に戻った。頭が真っ白になっていて、立つことさえ出来なくなった。座りながら目を瞑り、頭を抱えて下を向く。もう上を向くことが出来ないかも、私このまま沈んでしまう。

 よりによって、あの時の記憶がこのタイミングで、鮮明に頭の中に映し出された。

 彼ではない、別の人の事なのに。