小さな芽は、花芽か葉芽のどちらかになり、それぞれの道を歩んでいくらしい。

 花芽は秋頃までに、つぼみがほぼ完成する。

 葉は秋になると休眠を促す植物ホルモンを作り芽に送る。

 冬の寒さに耐えられる準備をして、休眠する。冬になり、寒さを感じると少しずつ眠りが浅くなりやがて目覚める。

 そして春になって準備が出来たら、花が咲くんだ。

 だから、桜は散って終わりなんかじゃなくてそこから始まるんだよ。

と、親切なおじさんが丁寧に教えてくれた。


 もっと細かい事まで教えてくれたけれど僕が覚えているのはこんなとこ。僕は鳥の中では記憶力が良い方だとは思うけれど全ては覚えられなかった。その理由はただ興味がなかったからなのかも。

 
 花が開く瞬間。今か今かと待っている。
ひとつのつぼみが、もうすぐ開きそうなのだ。

 咲いた姿を見た瞬間、僕は一年間だけという条件で人間の姿になれる。




 そして、遂にその時が訪れた。

 起きてから見に行くと、朝日を浴びて桜の花がきりっと自信ありげに、ふわっと可愛らしくも見え、とにかく美しい姿で開いていた。


 僕は背筋をピンっと伸ばした。