おじさんは、僕の事を“ 道に迷って、帰り道が分からなくなっちゃった人 ”って設定にした。その説明をふたりにしてくれて、僕を家に置いてくれた。無理がある設定だと思ったけど、ふたりはすぐに納得していた。


 おじさんの名前は花丸木さん。気になって見ていた女の子のお父さんだった。

 そして、毎日見ていた女の子の名前は“ 咲良 ” だった。僕が変身する時に見た“ 桜 ” と同じ名前。偶然なのだろうか。

 僕をまじまじと見てくる男の人の名前は(れん)。花丸木さんが経営しているカフェで毎日お手伝いをしていた。


 咲良と最初に会話をしたのは、僕が人間として暮らし始めてから三日たった時だった。   

 僕は、朝、ビニールプールを膨らまし、水をたっぷり入れた後、服のまま中に入っていた。

「えっ? 何をしているの?」

 彼女は不思議そうな顔をして、リビングの大きな窓を開け、覗き込んできた。

「えっ? 水浴びだよ! こういう事、やらないの?」
「私はやらない。でも楽しそう」

 咲良は外に出てきて、僕と同じように服のままビニールプールに入ってきた。肩まで入って、黒くて長い髪の毛まで濡れている。

「ちょっと寒い」

 彼女はそう言って笑った。笑顔を初めて見た。

 すごく可愛くて、胸の辺りがぎゅっとして、ほかほかした。この感じは何なのだろうか。
  
 この事がきっかけで仲良くなっていった。