あっ! すぐに思い出した。
 開いた桜の花を見たら倒れたんだ。

「だってさ、僕の目の前でカラスが人間になったんだもん」

 見られていた? いや、それよりも今の僕は……。

 まずは手を見た。指を動かしてみる。

 うん、これは人間だ。

「まさか、本当に人間になれたなんて」

 見える景色が違った。カラスの時よりも見える色がシンプル。今まで眩しく見えていたものが暗く見える。それに慣れるのには少し時間がかかった。

 改めて自分の全身を見ると、今までは黒い羽毛に覆われていたけれど、今は何も着ていなくて変な感じがした。人間は、いつも何かを着ている。

 何も着ていないのが何故か恥ずかしいなと思っていると

「とりあえず、服着ようか。ちょっと待っていて?」

 おじさんは、部屋を出ていった。