翌日の夜遅く。
　私は集団自殺の現場になった廃墟……ではなく、別の廃墟の前にいた。
　集団不審死について図書館の無料新聞や、街角のテレビニュースを見てわかったことは二つ。
　1つ目は誰でもわかる。
　集団不審死はこの街にある廃墟でのみ起こっているということ。
　そして、２つ目は私みたいな除霊師や視える人でないと分からない。
　それは……現場の写真や映像には必ず大量の霊が映りこんでいるということだ。
「いるいる……」
　私の目で視える範囲で数十……いや、数百体の霊が廃墟の周辺を漂っていた。
　除霊師としてはこいつらを除霊するべきな気もするけど、依頼されていないのだから除霊してもお金にはならない。……無視しよ。
　廃墟の中に入ろうとしたら、目の前に黒いスーツで長い黒髪の色白な美人が現れた。
「お客様……まだ会場はあいておりませんよ？」
　私はお祓い棒を取り出して後ずさる。
「この気配……あなた人間？」
　全体的に黒い色白の美人は、小首をかしげる。
「なにを言っているのかわかりかねますが、私はしがないマネージャーです。本日は私がマネージメントしているアイドルのライブ日です。あなたも見に来たのでは？」
「嘘つけ、どこの世界に亡者相手にライブを開くアイドルがいるのよまったく……」
「あ、そろそろ時間です。皆さん、お待たせいたしました。これよりライブの開園時間です。急がず焦らずゆっく進んでください」
「ちょっと聞きなさ……ちょ、霊共邪魔よ！　押すな！　生意気ねあんたら！　今この場で祓ってやりましょうか！？」
　何か熱狂と興奮冷めやらぬ霊達に押されながら廃墟の中に入っていく。
すると、パッと光がついた。頭上を見ると、人魂がミラーボールのように輝いていた。
「えぇ、ライブハウスみたいになっとる……」
　唖然としていると、霊で過密な空間がどよめきだす。
　スポットライトのように、人魂たちの光が一か所に集中した。
　そこは一段高い壇上だった。
　突如浮かび上がったシルエット。
「みんな～！　こんレイミ～！　今日は来てくれてありがとー！　みんなの為に私精一杯歌うから、最後まで楽しんでいってね～！」
『『『うおおおおお！　レイミちゃああん！！』』』
「……うえ？」
　突然の推しの登場に私は言葉を失った。
　亡者共が熱狂する。レイミちゃんの歌で熱狂する。
　そうよね、たとえ亡者でもレイミちゃんの生歌を聞いたらそうなるわよね……。
　でも、なんでレイミちゃんが亡者相手に歌ってるの？
　混乱と、生歌を聞ける喜びにさいなまれているうちに気付けば最後の曲が終わっていた。
　……最高のライブだった。
　集まっていた亡者たちの数がなんか減ってる気がするし、よく見たら足元に数名の男女が満面の笑みを浮かべて息絶えている気がするけど……。あれ、私ここにライブ観にきたんだっけ？
「みんな～！　今日は聞きに来てくれてありがと！　これからサイン会を開くから、成仏しなかった人たちは並んでね～！」
『『『ほしい！　レイミちゃあああん！』』』
　少なくなったもののそれなりの数の霊達がレイミちゃんの前に一列に並ぶ。
　レイミちゃんの、生サイン！？
「ああぁ！　ああああ！　私も！　私も欲しい！　どけ！　どけえええ亡者共おお！」
　私は己の職務をすっかり忘れ、お祓い棒で霊共をぶん祓っていた。