私達は帰ろうと公園を出ようとした時だった

にゃおと猫の鳴き声が聞こえた

その鳴き声に2人で振り返った

そこには見たことがある黒猫がいる

「黒猫…」

「君、そこにいたの!」

紬は私の声に被せて言った

「え、なに買い猫?」

「ううん、違うけどなる予定だよ」

紬は黒猫を抱き抱えながら優しく撫でた

「どういうこと?」

話が見えてこない私にとって疑問しか浮かばない

「この黒猫ね、日向と帰り道によく出会ってたんだ!人懐っこくて可愛いし、よく私の家まで着いてきてたの」

紬は黒猫に視線を落とした

「両親に交渉しまくってやっと飼うことが決まってね…いざ飼おうとしたら姿を見なかったんだ」

紬は丁度、月が居なくなったぐらいかな、不思議だねって猫に話しかけていた

「そうなんだ、私はこの子に引っかかれたから…相性悪いよ?」

私は少し苦笑しながら伝えた

「一切そんなことしなかったのに…珍しいね」

紬はぽかんとして言った

確かに私の人差し指には傷が残っている

夢なんかじゃない

それにこの黒猫はよく私のところにやってきていた

家の窓

それに夢にまで

あとは日向といる時

そして今

この黒猫は私に何かを伝えようとしているのだろうか

「んー、まあ猫ってさ(つき)の動物だっけ?そう言われてるらしいし、名前が(つき)だしなんかあるのかな」

紬は少し悩む素振りを見せながらそう言った

「そんなこと関係ある?」

にわかに信じ難い話だった
でも黒猫がここまで関わってきている事実にどこか疑いきれなかった

「よしなら君の名前は(つき)だ」

「え、そんな決め方でいいの?」

もう決めたもんと紬は黒猫に同意を求めていた

黒猫はにゃおと返事をするように鳴いた

この黒猫は紬に繋がっていた

紬は日向と私を繋ぎ合わせた

全部紬が繋いでくれたおかげで今がある

紬は人と人を糸のように縫い合わせているんじゃないかとさえ思わせる

きっとこの話が本になるとしたらこんな人の心に入ってきて繋ぐ天性の持ち主が主人公だろう

こんなにも真っ直ぐで一生懸命

人を変える力を持っている紬

私は君が主人公で良かったと思うよ

だって現に私が救われた1人なんだから

頑張ったって紬にはなれやしない

主人公になるなんて夢のまた夢の話

諦めて正解だった

「紬、帰ろう」

だから私は君を引き立たせて輝かせてあげる

約束が守れる間は。

それが私の最後の演目だ