___テストが間近に迫る頃には私は万全とは言えないが熱も下がったため登校していた

あれから2人は少しギクシャクしていた
風邪をひく前よりも甘い空気は感じない

日向のほうは謝ったと言っていた。テスト週間だが部活の試合が近く練習しており、紬と少し距離が出来てしまっていたとのこと

それでも仲良く話している事は変わりはない。
そのことにイライラしていても少し優越感があった。

だって今日は日向と勉強するのだから。
紬を嫉妬させようと考えた結果、こう2人で放課後残ることが人目に触れていいと考えた

____放課後

友人達に別れを告げ、席からよく見える窓には紬が一人、歩いているのが見えた

「ざまあみろ」

そんな言葉がボソッと出てきた
今の私は目に光はないだろう

いつからこんなにも我儘になってしまったのだろうかと考えれば考えるほど、私の(日向)を奪った泥棒()が悪いのだと言い聞かせてしまっていた

私は一人、静かな教室で待っている
万全の体調ではないため、少しうつらうつらと眠気が誘われていた

ぶわっと秋を知らせる風でカーテンがなびいたその先に太陽に照らされた日向が優しい顔をしてこちらを見ていた

「日向…眩しいよ」と口が勝手に動いていた

「ん?どした?」と日向の少し驚いた声でハッとする

私と向かい合わせで日向はカリカリ音を立てて勉強していた手を止めた

私の目線の先には誰もいない

「や、ごめん…ボーっとしてた」と私は頭を振りながら手元の教科書に目を移した

「そうか?ならいいけど」とまた勉強を再開させた

体調が悪いせいで白昼夢でも見ていたんだ私はと考えるしかなかった

陽に照らされた日向を目を奪われることがあっても眩しいと思ったことはない

ため息を小さくついた
切り替えよう、そう思った

日向は私のそんな異変にピクリとも反応しない。

紬のあの鼻緒には気づいていたのに…
そう思えば、また“いつもの私に”戻れた気がした

勉強を終えた私達は、日向に自然と送ってもらえる形となった

「んーー!疲れた!」と日向はのびをしていた

「お疲れ様、よく頑張ったよ」とわらってみせると

「月、体調悪かったろ?無理してごめんな」とこちらを振り返り真剣な顔していた

「そんなことないよ」と慌てて隠そうとすると

「ばーか、分かんだよ。月の体、弱いことぐらい」と日向は陽が落ち、月が登るのが早くなっていた空を見つめて言った

どうして君はそんなに期待させるのか
言い聞かせていた私がバカみたいに見える

言葉を失っている私を見かねて日向は少し前を歩きはじめこう伝える

「俺と月、昔会ったことあるんだよ」と。

「え、同種に会うのは初めてだって…」って私が続けると「はいはい、帰んぞー」とお得意のスマイルで振り返る

こうなってしまったらこの会話はおしまいだということ

会話は少し気まずい雰囲気のせいでなく淡々と歩いていると、ブロック塀の上のそこには暗くなり始めた空に溶け込もうとする1匹の黒猫がいた

私はいつの日か八つ当たりした黒猫に姿を重ねていた

というかそっくりだった

「おー、猫。可愛い」と気づけば日向は分かりやすくテンションを上げ、黒猫に近づく

日向から差し出された手に黒猫は顔を擦り付けていた

イケメンに動物が寄ってくるってこういうことかと実感させられた

「こいつ、可愛いし人馴れしてるな。月も触れば?少し元気でるぞ」と日向に進められ、手を出すと黒猫はシャアって怒り、私を引っ掻いた

そして気づく、あの時の猫だと。
猫は私のこと覚えているのだろうかとぐるぐる考えていると日向はその姿をみて笑っていた

なんて冷徹なやつ、心配してくれてもいいじゃんと思いながら痛みを感じた

当の本人は「おいおい黒猫ちゃんよ。美人さんの手に傷つけちゃダメだ」と黒猫を叱っていた

私は右手の人差し指から流れる血をティッシュで押えていた

「もうバカ日向」と少し怒った振りをしながら絆創膏を貼っていた

黒猫はその場からスっといなくなり、日向はこちらに戻ってくる

「その手、しっかり石鹸で洗えよ?菌でも入ったら大変だ」と優しく怪我をした手を握ってさすってくれた

「冷たくてごめんな」とはにかむ日向

ひんやりとした日向の手
どことなく陽の暖かさを感じていた

自然とズキズキしていた痛みはそのさすってくれた手に吸収されたのだろうか、もう痛みは感じない

日向のこういう所がさっきの黒猫と似ている
いい顔をしていると思えば、気分で平気で傷をつける

でも誰よりも人を見てくれていると知っているからそんなことだってどうでもよかった

恋は盲目ってやつだ