僕は蒼空と美月と過ごした最後の日、懐かしくてとても幸せだった。

こっちの世界でいちばん幸せな時間だったのかも。

 3人でのんびり過ごした時間をこの世界での、最後の記憶に。

美月、蒼空……。

「さようなら……」


 次の日、朝寝たふりをして美月が仕事でいなくなったのを確認した後、行動を開始した。業者に頼んで僕のものを全て処分してもらって、持っていくものをまとめた。

 僕のいた跡がひとつも残らず消えた部屋の姿を眺めながら、最後にここで美月と一緒に過ごした日々を思い出し、脳裏に焼きつけた。

 笑った顔、怒った顔、泣いた顔。表情、言葉……。全ての美月が僕の心からこぼれてしまわぬように、するりと消えてしまわぬように。強く、強く刻み込んだ。

 この世界で、美月を愛したんだ。


 そして僕は、家を出た。