「あ、すみません」

「シャルロット?」

頭を下げる私にかけられる、名前を呼ぶ声。
そこに立っていたのはベビーフェイスなイケメンで柔らかな雰囲気を纏っている。そして私を不思議そうな顔で見つめた。

「えっと、ごめんなさい。私頭を打って記憶喪失になってしまったんです。だから何も覚えていなくて」

「記憶喪失?シャルロット、僕のこと覚えていないの?」

勢いのまま、彼は私の両手を優しく包んだ。
大きくてあたたかい手はシャルロットの華奢な手を愛しそうに撫でる。

「僕はジャンク。シャルロットの恋人だよ」

小説の雰囲気そのままの優しく柔らかな感じ。緩くうねった金髪と下がり気味の目尻が余計に柔らかな空気を醸し出す。

「ジャンク」

「そうだよ、シャルロット。大好きだよ」

そんなストレートに言われるとどぎまぎしてしまう。
だけどごめん、ジャンク。
私の推しはアズールだからまったく心動かないわ。

「ごめんなさい、覚えていないの」

「そうなんだ……。そうだ、また僕と一緒に本を読もうよ」

「私たちはいつもここで本を読んでいたの?」

「そうだよ。僕はこの図書館で書士をしているんだ」

小説では、ジャンクは庶民だがその才能と実力を認められて国の試験にも合格している優秀な書士だった。

シャルロットが記憶喪失だと言っても大して動じず、むしろ親身になってくれている。さすがオタク女子の間で人気なキャラだ。期待を裏切らない優秀な言動。

この手の握りかたひとつでさえ、彼が優しいことを感じさせてくれるのだ。
ジャンク、すごいヤツだよ君は。