「こんな夜にこっそり会うなんてまるで愛人みたいじゃない?」

「そういうナコだって、こんな夜に俺に会いに来たことを忘れるなよ」

「ぐっ!アズールにつっこまれるとは思わなかったわ」

私が悔しそうにすると、アズールは目を細めてなぜか私の頭を優しく撫でた。

不意打ちは卑怯だ。
せっかく治まっていたドキドキが復活してしまうではないか。

「私、ちょっと追いかけてみるよ」

「は?ちょっと待て!」

「大丈夫。深追いしないから。ちょっとだけだよ」

私はアズールを振りきるように謎の女性が歩いて行った方向へ走り出す。

「ナコ!」

背後から私を呼ぶ声が聞こえたけれど、私は振り向かなかった。謎の女性が気になるのは本当だけど、このままアズールといるとドキドキしすぎて心臓が張り裂けそうだ。

アズールが名前を呼んだ瞬間、「誰だ!」と声がした。アズールは菜子を追いかけるのをやめ、ゆっくりと柱の影から身を出す。

「ああ、俺だ」

「ああ、隊長ですか。驚かせないでください」

「すまない」

アズールは衛兵を菜子から遠ざけるように、適当な会話をして気をそらせた。