私を部屋まで送るため隊服に着替えたアズールは、やっぱりかっこよかった。こんな素敵な人が隣を歩いてくれるなんて夢のようだ。

「うわあ、綺麗。吸い込まれそうだね」

星空に手を伸ばすと掴めそうな気がしてぐっと背伸びをする。世界観は違っても空は同じなんだなと不思議な気持ちになった。

と、ふいに石畳の段差に躓いて体が一瞬宙に浮いた。転ぶと思ったのも束の間、私の体はアズールによってしっかりと支えられた。

「世話のかかるお姫様だ。また頭を打ったらどうするんだ」

「ごめん。あ、でも頭を打ったら元の世界に戻るのかな?」

「ナコは元の世界に戻りたいのか?」

そういえば元の世界に戻りたいなんて考えたことなかった。すっかりこの世界に馴染んでしまったし、アズールとも仲良くなれたし。だからといって元の世界にやり残したことはないなんてことも言い切れない。まだまだたくさん小説も漫画もアニメも見てキャーキャー騒ぎたかった。夢小説も書きたい。司書の仕事だって頑張りたい。
だけど今の気持ちは……。

「わかんない」

ぼそりと呟くと、アズールは「そうか」とだけ言って手を離した。