壁ドンにドキドキする間もなく、アズールの冷たい言葉に私は息を飲んだ。

「これは魔道具だ」

アズールが手を開くと、潰れた髪飾りからはほのかに煙が上がった。それは一瞬の出来事だった。

「何これ?」

「何かよくない魔法がかけられていたのだろう」

「ええっ!」

「ジャンクに会うのはやめろ」

「これ、ジャンクが?」

「どうだかな?」

私ははっとなった。

小説ではシャルロットは魔女によって拐われ、それを助けるのがジャンクだ。そしてアズールも騎士隊長として危険にさらされる。

私は悲痛な面持ちでアズールを見る。
あまりにも必死な形相だったのだろうか、アズールは不思議そうに眉間にシワを寄せた。

「ずっと思っていたのだが。シャルロット、お前は一体誰だ?」

ドキッと血の気が引いていくのがわかる。

「誰って、私はシャルロットよ?」

「本当に?記憶をなくしてから別人のようだが」

アズールの手が私の頬に触れた。
大きくて暖かい手は、優しく頬を撫でる。

くすぐったいような気持ちいいような感覚に私は肩をすくめた。視線が絡み合い、自然と鼓動が早くなるのがわかった。

な、何?
このシチュエーション。
ど、どうなる?どうなるの、私。

「隊長!」

遠くからアズールを呼ぶ声がし、アズールは私から手を離した。

「すぐ行く」

隊員に向かって叫ぶと、私の方に囁く声を向ける。

「後で話をしよう」

私は小さく頷いた。

ドキドキする心臓は鳴りやむことを知らず、私はしばらくその場を動くことができなかった。