自分の心の葛藤が表情に出ないように気をつけながら、私は丁寧にお礼を言ってジャンクと別れた。

アズールとは相変わらず気まずいままだ。

「はあ」

ため息深く城に戻ると、アズールが騎士隊の訓練を指揮していた。
その姿は凛々しい。

やっぱりアズールはかっこいい。
涼しい顔して実は努力家なところとか、それでいて寡黙なところもいい。

でもそれは小説でアズールの背景を読んでいたからであって、今ここに存在するアズールのことは何も知らない。

そっか、何も知らないんだ。
そう思うと何だか苦しくなった。

「こんなところで何をしているんだ?」

「ぎゃっ!」

突然声をかけられ、私は体をびくつかせながら可愛くない悲鳴を上げた。
そこには怪訝な顔をしたアズールが私を見下ろすように立っている。

「えーっと、ちょっと見学していただけよ」

私はしどろもどろになりながら言い訳をする。

ていうかやっぱりアズールかっこいい。
背が高いし隊服がよく似合っている。
見下ろされているのに何かときめく。

ふいにアズールは私の髪に触れた。
ドキッと跳ね上がる心臓はどんどん鼓動を増していく。

(な、な、な、な、なに?!)

アズールとの距離の近さに息が止まりそうになった。

「これは?」

すっと髪を鋤かれたかと思うと、アズールの手の中には蝶の髪飾りが握られている。

「あ、これはジャンクがプレゼントしてくれて」

言うや否や、アズールはそれをぐしゃっと潰した。

「ちょっと!何するの?」

咎めようと前のめりになった私はアズールの大きな胸に阻まれて一歩後退り、行く手を失って背中が壁に付いた。アズールはそのまま私の顔の横に手を伸ばす。

……待って、これって壁ドンじゃん。