1-6. 伝説のドラゴン

 青年は窓から外に飛びだすと、ボン! と爆発を起こし、一面煙で覆われた。
 やがて、煙の中から巨大なものが姿を現してくる。
 それは厳ついウロコで覆われた巨大な恐竜のような生き物……ドラゴンだった。なんと、青年はドラゴンの化身だったのだ。
 大きな翼をゆっくりとゆらしながら、地面に降り立ち、巨大な鋭いかぎ爪に恐ろしげな牙を光らせ、ギョロリとした真紅に光る特大の瞳をユリアに向ける。

「ド、ドラゴン……」
 ユリアは口に手を当て、驚きのあまり固まった。
 ドラゴンは後頭部を窓枠に合わせると、重低音の声を響かせる。
「さあ、乗って」
 ユリアは一瞬躊躇(ちゅうちょ)したが、このままここにいる訳にもいかないのだ。意を決すると窓枠に乗り、腕を伸ばし、ドラゴンの頭に生えている長いとげをつかむと恐る恐るドラゴンの上に乗り移った。
 ウロコはつやつやとして綺麗で、意外にも温かかった。
「こ、ここでいいのかしら?」
 ユリアはトゲのないウロコの上にペタリと座って聞く。
「しっかりとつかまって振り落とされないように……」
 ドラゴンはそう言うと、バッサバッサと翼を大きく羽ばたかせた。
 そして太い後ろ足で一気に跳び上がると、そのまま翼で空気をつかみ、大空へと飛び立った。
「うわぁ!」
 初めて乗る伝説の存在、ドラゴンにユリアは歓喜の声をあげた。
 地平線に残る茜色から夜の群青色へと続く、美しいグラデーションの空をドラゴンは優雅に飛んだ。
 見下ろすとジフの街には明かりが灯り、美しい夜景が広がっている。
「すごい、すごーい!」
 大喜びのユリア。
 見ると、地平線の向こうからポッカリと黄色い満月が昇ってくる。いつもよりはるかに大きく見えるその満月にユリアは思わず見入った。
「落ちないでね……」
 ドラゴンはそう言うとさらに力強く翼をはばたかせ、一気に速度をあげた。
「きゃぁ!」
 ユリアは驚きながらも、(くら)く押しつぶされていた心が一気に軽くなっていくのを感じていた。
「ねぇ、あなた、お名前は?」
 ユリアは弾む心で聞いた。
「我はジェイド……、ユリアに昔助けられた龍だ」
「あ、あの時のトカゲ……じゃなかった、傷ついた生き物があなただったのね!」
「そうだ。ユリアは我の命の恩人だ」
「ふふっ、傷ついた者は誰でも助ける、それが私の仕事なの」