ユリアはその瞬間、自分の中で何かのスイッチが入った音を聞く。ユリアは何かを言おうと思ったが、言葉にならず、ただ、青年の美しい瞳に吸い込まれるように見入っていた。
 真紅の炎が揺れる瞳……、ユリアは見覚えのある懐かしさを感じたが、それが何だったのかは思い出せない。

「我と一緒に……来るか……?」
 青年は優しい笑みを浮かべる。

 ユリアはどういうことか一瞬混乱したが、ここにいたらレイプされてしまう以上、彼についていく以外道はなかった。
 ユリアは困惑した表情を浮かべながら、ゆっくりとうなずく。

「ふざけんなこの野郎!」
 ザロモが木の椅子を振り上げ、そのまま青年の後頭部に打ちおろした。

 ガ――――ン!
 砕けながら飛び散る椅子……。普通の人間なら即死の勢いである。
 しかし、青年は全く意にも介さずに、スクッと立ちあがり、ザロモの方を向く。
 後頭部をクリーンヒットしたのにノーダメージ、ザロモはその想定外の出来事にゾッとして、思わず後ずさった。これはつまり、青年は人間ではない、人智の及ばない存在だということなのだ。
「殺しておくか……」
 青年はそう言うと腕に赤い光をまとわせ、振り上げた。
「ま、待って! 殺さないで!」
 ユリアは青年に抱き着いて制止する。
「なぜ止める? こいつは……あなたを傷つけようとした」
「そ、そうなんだけど、私はまだ無事だわ。殺すほどのことじゃない……ありがとう……」
 ユリアはそう言って、ギュッと青年を抱きしめた。

「そうか……」
 青年は目をつぶり、しばらく何かを思案すると、
「今後、彼女や彼女の関係者に危害を及ぼすようであれば、お前とその一族郎党皆殺しにしてこの屋敷は焼き払う……。分かったな?」
 そう言って、瞳の奥の炎をゆらりと光らせながら、ザロモに警告した。
 ザロモはうんうんとうなずくと、冷や汗をたらしながら聞く。
「お、お前は何者か?」
「我は超越者……、人間よ、調子に乗るなよ……」
 青年は不愉快そうにそう言うと、手のひらをザロモの方に向け、光を放つ。
 ぐはぁ!
 ザロモは吹き飛ばされ、壁にしたたかに叩きつけられると崩れ落ち、意識を失って転がった。

「さぁ……、いきましょう……」
 青年は振り返り、優しい笑みでユリアを見つめる。
「お、お願いします……」
 ユリアは急いで頭を下げた。