ユリアは必死に転がって逃げる。

「いい加減観念しろ!」
 ザロモはユリアの両足をつかむと引っ張り持ち上げる。
 もはや猶予はなかった。
 自分は冤罪(えんざい)なのだからアルシェがいつか迎えに来てくれるはず。こんな所で大聖女として守ってきた純潔を穢されてしまう訳にはいかないのだった。
「やめてぇ!」
 ユリアは思いっきりザロモを蹴り飛ばす。

 ぐはっ!
 もんどり打って転がるザロモ……。
 フーフーというユリアの荒い息が静かに部屋に響いた。

 ザロモはパンパンと服のほこりを叩きながら起き上がる。
 そして、真っ赤になってユリアをにらみつけた。
「お前の両親を王族侮辱罪で投獄してもいいんだぞ?」
「えっ!?」
 ユリアは息をのんだ。
「お前の親の処遇を決めるのは俺だからな!」
 ザロモはユリアに近寄ると勝ち誇ったように見下ろした。
「パパママは関係ないわ!」
 そう叫ぶユリアだったが、領主の横暴を止める手立てがないのも分かっていた。
「よーく考えろよ?」
 ザロモはいやらしい笑みを浮かべながらズボンを下ろす。
 ユリアは奥歯をギリッと鳴らし、動けなくなった。たっぷりと愛情をこめて育ててくれたパパとママ……。親不孝など絶対できないのだ。
「痛いのは最初だけだ。そのうち欲しくなってお前の方からせがんでくるようになる」
 ザロモは再度ユリアの両足を持ち上げた。

 ユリアの嗚咽(おえつ)が部屋に響く。
「さーて、どんな声で鳴くのかな……」
 そう言いながらザロモが両足を広げた時だった。

 誰かが後ろからザロモの股間を蹴り上げる。
 ぐわっ!
 悲痛な声をあげながらザロモは床に倒れ込んだ。

「えっ!?」
 ユリアが目を開けると、そこにはグレーのシャツに黒いジャケットを羽織ったスレンダーな長身の青年が立っていた。ショートカットの黒髪に印象的な切れ長の目と高い鼻、まるで俳優のような華のあるいで立ちだった。
 ユリアは急いで足を閉じ、破けたシャツで胸を隠した。
 すると青年はジャケットを脱いでそっとユリアにかけ、
「もう……、大丈夫だよ……」
 そう言いながらじっとユリアを見つめた。アンバーの瞳の奥にはゆらりと真紅の炎が揺れる。
 そして青年はユリアの前にひざまずき、そっと手を取ると、甲に優しく口づけをした。
「えっ!?」

 カチッ