「うーん、じゃ、いつか返すから使わせてね」
 ユリアはうれしそうに笑った。

      ◇

 服や調味料、小物などを買って、ちょっと高級なレストランに来た二人。
「久しぶりの街に、乾杯」
「カンパーイ!」
 二人はグラスを合わせてリンゴ酒を口に含んだ。
 爽やかな香りとシュワシュワした炭酸が身体に沁みる。
「美味しいわ……」
 ユリアはトロンとした目で、心地よい疲れが癒されていくのを感じていた。
 森でゆったりと暮らし、街で遊ぶ、新たな人生が楽しみになってきていた。

 その時だった――――。

「ねぇ、聞いた? スタンピードですって!」
 隣のテーブルのおばさんがキナ臭いことを言っている。
 ユリアは思わず眉をひそめてジェイドを見た。
 ジェイドも険しい表情で聞き耳を立てる。

 話を総合すると、数日前に王都にスタンピードが襲ってきたらしい。幸い撃退はできたようではあったが多くの死傷者が出たという話だった。
 ユリアはがっくりと肩を落としてため息をつく。自分が張っていた結界が健在であれば死傷者など出なかったはずなのだ。ゲーザだか公爵派だか知らないが、彼らの陰謀が引き起こした被害に腹が立って……、それでもどうしようもない自分に打ちひしがれていた。

 食べ物がのどを通らなくなってしまったユリアを、ジェイドは心配そうに見つめる。
 二人は早々にレストランを引き上げ、オンテークの家に帰った。

     ◇

 ベッドの上で月明かりを浴びながら、泣きそうな顔でユリアは言った。
「ねぇ……、私、どうしたらいいのかしら……」
「どう……って?」
 ジェイドが少し困惑したように返す。
「手を尽くして、また大聖女に復帰できるように頑張った方がいいんじゃないかって……」
「でも、ユリアは罪人とされてしまってるから、公爵派の陰謀を暴いて名誉の回復をしないとならないんだろ? できるのか?」
「そう……、そうなんだけど……」
 ユリアは沈む。どう考えてもそんな事不可能に思えたのだ。