「市場でユリアの食べ物を買ってきた」
 見ると、大きく丸いパンやトマトやキュウリ、柑橘に瓜などが入っている。
「わ、私のために!? ごめんなさい、ありがとう」
「人間は肉だけじゃダメだから」
「うん、嬉しい!」
 喜んでジェイドを見上げたユリアだが……、ジェイドの優しいまなざしに昨晩の事を思い出し、顔を真っ赤にしてうつむいた。
「どうした?」
「さ、昨晩はごめんなさい……」
「ん? 寝返り打ちながら蹴ってきたことか?」
「えっ!? 蹴ったの? 私が!?」
 目を真ん丸に見開くユリア。
「元気にゲシゲシ蹴ってた」
 うれしそうに目を細めるジェイド。
 ユリアは思わず天をあおぐと、
「ごめんなさい! ホント――――に、ごめんなさい!」
 と、ひたすらに謝った。
「大丈夫。食事にしよう」
 ジェイドはそう言うと、朝食をつくりにキッチンへと出ていった。

     ◇

 肉料理に、サラダ、パン。美味しそうな食卓をかこんで朝食を食べる二人。
 チチチチと鳥のさえずりが森から聞こえてくる。

「お茶はアールグレイでいい?」
 ジェイドが優しく聞いてくる。
「あ、もう、何でも……」
 ユリアはまだちょっとぎこちない。

 ジェイドはニコッと微笑むと、水魔法で空中に水玉を浮かべた。何をするのかと思ったら次は火魔法で水玉を器用に囲む。

「うわぁ、すごーい!」
 まるでマジックショーのようなジェイドの技に思わず歓声を上げてしまうユリア。
 ジェイドはそんなユリアを優しい目で見る。そして、火を止めると湯気の立ち昇る水玉にサラサラと茶葉を振りかけた。茶葉は茶色の軌跡を描きながらゆらゆらと踊り、ふんわりとベルガモットの爽やかな香りを放つ。
 王宮でも見たことのない、素敵なお茶のショーにユリアはじっと見入った。

 水玉をクルクルと回して渦を作って茶葉を集めると、ジェイドは水玉から茶葉のない小さな水玉を作り、ティーカップへと落としてユリアへと差し出した。
「はいどうぞ」
「うわぁ! ありがと!」
 ユリアは満面の笑みで受け取る。
 そして一口含むと、目を閉じて満足そうに軽く首を振った。
 
「うーん、美味し~! ジェイドは魔法上手なのね」
 ユリアはニコニコしながら言った。

「我は魔法をこの世界に導入した時に作られ、魔法の調整を手伝わされたりしたからね」
「へっ!?」