そう言ってヒールでグリグリと薄い頭を踏みにじった。
「ぐわぁ……、お、お許しくださいぃ……」
 少女はその間抜けなさまを眺め、首を軽く振ると、ボスっとまた椅子に腰かける。ウェーブのかかった金髪が月明かりにキラキラと揺れた。
「まぁいいわ、次はスタンピードよ、うまくやんなさい」
 と言ってニヤッと笑う。
「はっ! 大聖女なき今、スタンピードは相当効くでしょう。お任せを!」
 挽回しようと必死のホレス。
 少女は美味しそうにキセルを吸い、
「楽しみになってきたわ……」
 そう言うと、すぅっと消えていった。







1-10. アールグレイの魔法

 チチチチ! チュン! チュン!

 鳥の声で目を覚ますと、すっかり明るくなっていた。
「えっ!? あれっ!?」
 急いで飛び起きて、目をこすりながら周りを見回すユリア。
「あっ、そうだわ……。ここはジェイドのお家……」
 ユリアはぶかぶかの男物のパジャマをじっと見つめながら、何か大切なことを忘れている感じがした。
「えーと、昨晩は悪い夢を見たような……。それで……ジェイドに腕枕してもらって……。えっ!?」
 ユリアはジェイドとの事を思い出し、真っ赤にした顔を両手で覆う。
「あわわ……、な、なんというはしたない……」
 今まで男性の胸なんて触ったこともなかったのに、自ら抱き着いていってそのまま添い寝してもらうなんてありえない話だった。追放されたとはいえ、復帰する可能性がない訳でもない。自分の中ではまだ大聖女なのだ。
「ど、ど、ど、どうしよう!?」
 ユリアはどんな顔でジェイドに会えばいいのか途方に暮れた。
「ジェ、ジェイドはドラゴンだから、こんな小娘のことなんて何とも思ってないよね? そう! ジェイドは人間じゃないからノーカウント!」
 ユリアは頭を抱え、必死に正当化を試みる……。
 ふと、パジャマの袖からジェイドの匂いがする事に気がついた。
「えっ……?」
 ユリアは思わずパジャマに鼻を近づけ、そーっと嗅いでみる……。
 昨晩の温かな気持ちがよみがえってきて、思わず顔がほころんだ。

 コンコン! と、ドアが鳴る。
「ひぃっ!」
 思わず跳び上がるユリア。
「どうした? 大丈夫か?」
 ドアの向こうでジェイドが聞く。
「だ、だ、だ、大丈夫よ!」
 爽やかな顔をして入ってきたジェイドは、両手に袋を下げていた。