ジェイドは優しくそう言って、ユリアの頭をそっとなでた。
 するとユリアは、ジェイドに抱き着いて、(せき)を切ったように大きな声で泣き叫ぶ。
 うわぁぁぁ……。
 ボロボロになった心が求めていた温もりを、自然とジェイドに求めるユリア……。
 ジェイドは優しく抱きかかえ、何も言わず、ただゆっくりと背中をさすった。

      ◇

 しばらく泣き叫ぶとユリアは落ち着きを取り戻し、ジェイドの厚い胸板から伝わってくる温かさに癒されていた。

「添い寝してあげよう」
 ジェイドはそう言うと、優しくユリアを横たえる。
「えっ……」
 ユリアは驚いた。男の人と一緒に寝るなんて、想像もしてなかった事態だった。
「嫌か?」
 ジェイドはちょっと寂しそうにユリアを見る。
「い、嫌じゃ……ないけど……、ちょっと、そのぉ……」
 ユリアは何と言ったらいいか悩んだ。
 するとジェイドはニコッと笑い、ユリアの隣に寄り添うと、毛布を掛ける。
「えっ、えっ……」
 思わず身体を硬くしてしまうユリア。
 ジェイドはそんなユリアの頭をそっと持ち上げると腕枕をして、優しく髪をなでた。
 最初は緊張していたユリアだったが、温かいジェイドの手の動きに徐々に心がほぐれていく。
「安心して寝るといい」
 ジェイドは耳元でささやく。
 ユリアはゆっくりとうなずくと眠気に身をゆだねる……。
 最後にはユリアはまるで赤ちゃんになったかのようにジェイドに抱き着き、温かい安らぎに包まれ、すうっと眠りに落ちて行った。

      ◇

 その頃、ジフの南、公爵が治める王国第二の都市ダギュラの宮殿で、公爵ホレス・ダギュラは土下座をしていた。
 静まり返った夜の宮殿の応接間、高い窓から差し込む月明かりを浴びながら少女は豪奢な椅子に深く腰掛け、すらっとした細い足を組んでキセルをくゆらせている。
 土下座されている少女はつまらなそうに、薄くなったホレスの頭を眺めながら言った。
「大聖女、ドラゴンに取られちゃったわよ? あんた何やってんの?」
「ル、ルドヴィカ様、申し訳ございません。まさかドラゴンが来るとは……」
 小太りの中年男、ホレスは冷や汗をたらしながら弁解する。
 少女はスクッと立ちあがり、細いヒールでホレスの後頭部をガシッと踏むと、
「私、いい訳嫌いって言わなかったかな?」