ジェイドはニコッと笑う
「あ、そ、そうなの?」
「歯ブラシやタオルなどはそこの棚にある。好きに使っていい。パジャマは大きいが我慢して欲しい。ではまた明日……」
 そう言うと、ジェイドは食器などを一式持って出ていった。

        ◇

 ふぅ……
 静かになった室内で、ユリアはベッドに転がり今日あったことを丁寧に思い返す。
 群衆や領主に襲われ……、ドラゴンに助けてもらい……、それで、胸のシールをはがして……もらった……。
 ボッと顔が真っ赤になり、ユリアはベッドを転がり、悶えた。
 そして、毛布をかぶり、気持ちを落ち着ける。
 一体自分はどうしてしまったのか……。
 悩んでいるとそのうち意識が遠くなり……寝入っていった。牢屋でほとんど寝ていない上に長旅で疲れがたまっていたのだ。

       ◇

「い、いやぁ!」
 夜半にユリアが叫んで起き上がる。
「あ、あれ……?」
 はぁはぁと荒い息をしながら暗い室内を見渡すユリア。

 ホーゥ、ホーゥ……。

 窓の外からは鳥の声が聞こえている。
「ゆ、夢……だったのね」
 ユリアは大きく息をつき、びっしょりと汗をかいた額を手のひらでぬぐった。
 男たちに追いかけ回され、襲われる夢……、それは弱っていたユリアの心の傷をさらに(えぐ)っていた。

 うっうっう……。
 今までの人生をすべて否定され、プライドも尊厳も粉々にされたユリアの心はボロボロだった。昏い想いが胸を蝕んでいくのをどうしても止められない。一体どうしてこんな事になってしまったのか……。

 うううう……。
 ユリアは流れる涙を止めることができず、綺麗な顔を歪めながら月明かりに照らされた毛布を濡らした。

 コンコン!
「どうした? 大丈夫か?」
 ドアが叩かれ、ジェイドの声がする。
「ご、ごめんなさい……、大丈夫……」
 ユリアは急いで涙を拭いた。
 ジェイドは部屋に入ってくると、涙にぬれ、憔悴(しょうすい)しきったユリアをしばらく見つめ、そして、静かに近づいてユリアの隣に座る。
 ユリアは恥ずかしくなってうつむいた。
 するとジェイドは、涙にぬれたユリアの手を取り、両手で包んで温める。

 うっうっう……。
 ユリアはその温かさに、押さえていた涙が止められなくなり、またポロポロと涙をこぼしてしまう。
「我慢……しなくていい……」