「私……、どうしちゃったのかしら……」
 そうつぶやいて眉をひそめ、ため息をついた。
 満月が優しくユリアの美しく張りのある肌を照らす。
 ホーゥ、ホーゥ
 どこかで鳥が鳴くのが聞こえた。

    ◇

 しばらくして、ジェイドがプレートに大きな肉と飲み物や食器を載せて部屋に戻ってきた。
「あっ、手伝うわ」
 ジェイドはニコッと微笑むと、
「大丈夫、座ってて」
 そう言ってテーブルにプレートを置き、手早く食器を整えた。
 肉は五キロくらいはあろうかと言う大きな塊で、いい焼き色がつき、表面にはローズマリーなどのハーブがついていた。
 ジェイドは人差し指の爪を鋭くナイフのように伸ばすと、シュッシュと肉をスライスしていく。そして、全部スライスし終わると斜めに倒し、切り口が並ぶようにして綺麗に盛り付けた。
「美味しそう!」
 ユリアは目を輝かせ、思わずつばを飲む。
 そんなユリアを見てうれしそうに微笑むと、ジェイドはブランデーを全体に振りかけた。そして、手のひらから魔法で豪炎を放つ……。

 ゴォォォ――――。
 炙られた肉はブランデーが燃え上がって大きな炎を噴き上げる。そして、ジュ――――というおいしそうな音を放ちながら香ばしい香りをあげていく。

「うわぁ……」
 ユリアはその見事な料理ショーに魅せられる。
 王宮でもこんな見事なディナーは見た事が無かった。

 ジェイドはユリアを席に座らせると、肉を三切れ皿に盛ってサーブする。
 そして、リンゴ酒をグラスに入れてユリアに渡した。
「どうぞ召し上がれ」
「ありがとう……」

 二人は見つめあい、シュワシュワ音を立てるグラスをカチンと合わせる。
「我の()()にようこそ」
「素敵なおもてなしに乾杯……」
 ユリアはと口の中ではじける泡の感覚を楽しみながらリンゴ酒を飲み、鼻に抜けていく華やかな香りにウットリする。
 肉も柔らかく、ジューシーで、表面はカリッと香ばしく極上の味わいだった。こんなのを自分で作ってしまえるなんてドラゴンは相当な美食家なのだ。
「これ、すんごく美味しい」
 ユリアはパアッと明るい顔をしてジェイドに微笑む。
「口に合ってよかった。ハーブと塩をまぶして低温のオーブンに入れてただけなんだ」
 そう言って静かにグラスを傾けた。