ユリアはうれしそうに言った。
「でも、それだけじゃ陥れられる……。人間界は恐ろしい」
 ユリアはあまりにも正しいジェイドの言葉に、返す言葉を失う。
「我の()()でゆっくりと暮らすといい。もう誰にもユリアを傷つけさせない」
「……。ありがと……」
 ユリアは目をつぶると、温かいドラゴンのトゲに頬ずりをした。

        ◇

 巨大な火山オンテークの方へ、満月の照らす森の上をしばらく飛ぶ。力強くバッサバッサと羽ばたく翼……。ユリアは風になびくダークブラウンの髪を押さえながら、すごい速さで後ろへと流れていく景色を楽しそうに眺めていた。

 やがてジェイドは下降を始める。見るとオンテークの中腹にある断崖絶壁にポッカリと大きな穴が開いている。
「あそこがあなたの家?」
「そうだ。誰も近づけない」
 そう言いながらジェイドは翼を大きくはばたかせて減速し……、器用に洞窟内に着地をした。
「我の()()にようこそ」
 そう言いながらジェイドは首を地面にまで下ろし、ユリアはトゲをつかみながら器用に床に降りた。
 ボン!
 ジェイドは爆発をすると、煙の中から長身ですらりとした男となって出てくる。そして、
「お疲れ様……」
 そう言いながらユリアの手を取り、微笑んだ。
 ユリアは頬を赤らめてうつむいて言う。
「ありがとう……。お世話になります……」
 ジェイドはニコッと笑うと、
「こっちだ」
 と、ユリアを引っ張った。

 洞窟をしばらく歩くと、魔法の光に照らしだされた荘厳な白亜の神殿が現れる。それは優美なグレーの筋が入った純白の大理石で作られており、随所に精緻な彫刻が施されて厳かな雰囲気を漂わせていた。

「えっ、ここがお家?」
「龍の()()とはこういうものだ」
 ジェイドはそう言って階段をのぼり、巨大な大理石の広間にユリアを案内した。






1-7. 温かい指先

「うわぁ……、広い……」
 ユリアは広間を見回し、壁際のリアルな彫刻群や立派な円柱を眺める。
「龍の姿だとこれでも狭い」
 ジェイドはそう言って肩をすくめた。
「全然生活の匂いが……しないわ。家具もないの?」
「奥に倉庫と……、人用の小部屋がある。おいで……」
 ジェイドは奥の重厚な扉を開いて廊下を進み、突き当りの部屋へユリアを案内した。