二年三組の教室に入ると、去年のクラスメイトたちが当然のようにそこにいた。時間が巻き戻っていることに気づいている人は、ひとりもいない様子だ。
自分の席に着いたとき、すずの机の横にカバンがかかっているのが見えた。姿は見当たらないが、学校には来ている。
「秋月さん、どこにいるか知らない?」
女子たちに尋ねてみると、部室棟にいるのを見かけたという人がいた。
僕はすぐさま教室を出て、階段を駆け下り、昨日と同じように中庭を突っきって、部室棟まで最短ルートで向かった。
写真部の部室のドアノブに手をかけたとき、いつもは施錠してあるドアに、鍵がかかっていなかった。中に誰かいるということだ。
ひと思いに扉を押し開けると、イスに座るすずの姿があった。
「騎馬くん?」
すずはアーモンド型の目をぱちぱちさせながら、開いていた冊子を閉じた。
「どうしたの、急に。ノックもしないで」
「すみません。どうしても話したいことがあって」
「話したいこと?」
後ろ手に扉を閉めてから、すずに歩み寄った。
「僕が過去に戻ってきてるって話なんですけど」
「またその話?」
すずは露骨に不機嫌な顔つきになった。
「昨日も言ったけど、私、そういう非科学的なことは信じない主義なの」
「たとえ僕が、未来で起きる出来事を言い当てたとしてもですか?」
「無理だね。騎馬くんが昨日みたいに、いくら未来のことを言い当てようと、私がそのタイムリープの話を信じることはないと思って」
「なんでですか」
「常識的に考えて、人が過去に戻るなんて絶対にありえないから」
その現実には考えられないことが、実際に起きているんだ。そう反論したくなるのを、ぐっと我慢してうつむいた。
出会ってたった一日の人から、『あなたは死んでしまうんです』『その過去を変えたいんです』と訴えられたところで、警戒心が強まるだけだろう。
そもそもこの現象はいつまで続くんだ?
明日? 一週間後? 一ヶ月後?
それとも高校の卒業式の日まで、このまま時が流れていくのか?
不確かなことばかりだけど、どんなに気味悪がられようと、ここで引き下がってはいけないことだけは確かだった。
僕がいつまでここに留まっていられるかわからない。僕のひとことが、すずの今後の運命を大きく左右するかもしれないのだから、責任は重大だ。
意を決し、すずの瞳を正面から見据えた。
「じゃあ、信じてくれなくていいので、話だけ聞いてくれませんか?」
「空想話には興味ないんだけど」
「そこをなんとかお願いします」
必死に頼み込む僕に根負けしたのか、すずは諦めたように軽く息を吐いた。