目が覚めると陽はすっかり上っていた。
不思議な気分だった。まさか自分が変転までしてしまうとは。
信じられない気持ちがある一方で、確かに自分にその力があると分かる。
その事実を自身に浸透させるようにぼーっとしていると、養母が燦人達と共に部屋を訪れた。
そして色々と話を聞かせてくれる。
あの後柏と鈴華は大人しくなり、今は部屋に閉じこもっているそうだ。特に鈴華は色んな意味で気落ちしていて、何もする気が起きないといった様子だとか。
養母はそう説明すると、今度は八年前のことを聞かせてくれた。
「あの事故の日。私も僅かだけど感じ取れたんだよ、お前の力を」
そうして向かった先では親友がすでにこと切れていて、唯一生きていた娘の香夜は無傷だった。
共に向かった里の者達はそれを気味悪がっていたが、気配を感じ取っていた養母は香夜が先祖返りであると確信したのだそうだ。
だが、それを皆に知られると香夜は強い月鬼の子を産む道具のように扱われるだろうと判断した。それに、長の跡取り娘として育てられている鈴華の立場も危うくなるだろうと。
だから隠し通すことを選んだ。
元々髪色を気味悪がられていた香夜は周囲の者から辛く当たられ、自分の心を守るために心に結界を張るようになった。すると身を守るための結界を張れなくなった様だったので、そのままの状況を容認したのだとか。
「隠し通して、いずれは里から出すか比較的優しい者に嫁がせるか。少しでも幸せになれる道を探しているところに燦人様からの便りがあったんだよ」
すぐに彼の求める者が香夜だと分かった。もしかしたら、日宮家ならば香夜を大事に守ってくれるかもしれない。
だが、そちらでも産む道具として扱われる可能性があったので賭けをしてみたのだそうだ。
舞台には上がらないように仕向けつつも、鈴華の近くに置くことで燦人が気付くかどうか。
結局はお付きの炯が気付き舞台で舞うことになるという予想とは違う状況になってしまったが、と養母は僅かに自嘲した。
「……でも、燦人様は力だけではなく香夜本人を想っているように見えた。だから、それを信じてこのまま嫁入りを進めると決めたんだよ」
そう話を締めくくると、燦人が困り笑顔を浮かべ口を開く。
「まさか私まで試されていたとは……。炯がいてくれて助かったな」
そうして視線を向けられた炯は「恐れ入ります」と軽く頭を下げる。
「そうだ、ちゃんと伝えていなかったがこれも持ってお行き」
思い出したように養母は横に置かれていた白い花の刺繡が刺された黒の帯を手に取る。
「これは華乃が私の嫁入りの際に祝いとして刺してくれたものだよ。お前にとっては形見にもなる。私と華乃からの祝いの品だと思って持ってお行き」
「母さんが?」
手渡された帯を見つめ、何とも言えない感情が沸き上がる。ただ、嬉しいという事だけは確かだった。
「香夜」
養母に場所を譲ってもらい近くに来た燦人が、改まって名を呼ぶ。
真剣な眼差しに香夜も居住まいを正すと、強い意志と優しさをその目に宿した燦人が口を開く。
「貴女の力を日宮は歓迎する。そして、私は貴女自身が欲しい。嫁に来てくれるかい?」
余計な言葉は邪魔だとでも思ったのだろうか。だが、直接的な言葉は香夜の心を大きく揺らす。
(欲しい、だなんて……でも、そんな風に求めてくれるなら……)
トクトクと早まる鼓動を落ち着かせるように深呼吸をした香夜は、燦人に笑みを返し三つ指を揃える。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
頭を深々と下げ、燦人の求婚を受け入れた。
了
不思議な気分だった。まさか自分が変転までしてしまうとは。
信じられない気持ちがある一方で、確かに自分にその力があると分かる。
その事実を自身に浸透させるようにぼーっとしていると、養母が燦人達と共に部屋を訪れた。
そして色々と話を聞かせてくれる。
あの後柏と鈴華は大人しくなり、今は部屋に閉じこもっているそうだ。特に鈴華は色んな意味で気落ちしていて、何もする気が起きないといった様子だとか。
養母はそう説明すると、今度は八年前のことを聞かせてくれた。
「あの事故の日。私も僅かだけど感じ取れたんだよ、お前の力を」
そうして向かった先では親友がすでにこと切れていて、唯一生きていた娘の香夜は無傷だった。
共に向かった里の者達はそれを気味悪がっていたが、気配を感じ取っていた養母は香夜が先祖返りであると確信したのだそうだ。
だが、それを皆に知られると香夜は強い月鬼の子を産む道具のように扱われるだろうと判断した。それに、長の跡取り娘として育てられている鈴華の立場も危うくなるだろうと。
だから隠し通すことを選んだ。
元々髪色を気味悪がられていた香夜は周囲の者から辛く当たられ、自分の心を守るために心に結界を張るようになった。すると身を守るための結界を張れなくなった様だったので、そのままの状況を容認したのだとか。
「隠し通して、いずれは里から出すか比較的優しい者に嫁がせるか。少しでも幸せになれる道を探しているところに燦人様からの便りがあったんだよ」
すぐに彼の求める者が香夜だと分かった。もしかしたら、日宮家ならば香夜を大事に守ってくれるかもしれない。
だが、そちらでも産む道具として扱われる可能性があったので賭けをしてみたのだそうだ。
舞台には上がらないように仕向けつつも、鈴華の近くに置くことで燦人が気付くかどうか。
結局はお付きの炯が気付き舞台で舞うことになるという予想とは違う状況になってしまったが、と養母は僅かに自嘲した。
「……でも、燦人様は力だけではなく香夜本人を想っているように見えた。だから、それを信じてこのまま嫁入りを進めると決めたんだよ」
そう話を締めくくると、燦人が困り笑顔を浮かべ口を開く。
「まさか私まで試されていたとは……。炯がいてくれて助かったな」
そうして視線を向けられた炯は「恐れ入ります」と軽く頭を下げる。
「そうだ、ちゃんと伝えていなかったがこれも持ってお行き」
思い出したように養母は横に置かれていた白い花の刺繡が刺された黒の帯を手に取る。
「これは華乃が私の嫁入りの際に祝いとして刺してくれたものだよ。お前にとっては形見にもなる。私と華乃からの祝いの品だと思って持ってお行き」
「母さんが?」
手渡された帯を見つめ、何とも言えない感情が沸き上がる。ただ、嬉しいという事だけは確かだった。
「香夜」
養母に場所を譲ってもらい近くに来た燦人が、改まって名を呼ぶ。
真剣な眼差しに香夜も居住まいを正すと、強い意志と優しさをその目に宿した燦人が口を開く。
「貴女の力を日宮は歓迎する。そして、私は貴女自身が欲しい。嫁に来てくれるかい?」
余計な言葉は邪魔だとでも思ったのだろうか。だが、直接的な言葉は香夜の心を大きく揺らす。
(欲しい、だなんて……でも、そんな風に求めてくれるなら……)
トクトクと早まる鼓動を落ち着かせるように深呼吸をした香夜は、燦人に笑みを返し三つ指を揃える。
「不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
頭を深々と下げ、燦人の求婚を受け入れた。
了