順番を待つように、舞台の下の位置で鈴華の舞を見つめる。
 毎年、年の瀬に披露している鈴華の舞はとても綺麗だ。力も里の中では一番強いので、紋様もはっきりとした光を放っている。
(この後に舞うとか、頭が痛くなるわ)
 そう思ったら本当に痛くなってきた。
 いや、寒気も酷くなってきたしこれは確実に熱が上がってきた証拠だろう。
 舞が終わったら養母に伝えて自室に戻れるようにしてもらおう。片付けをしないことで嫌な顔はされるだろうが、倒れたところを運ぶのも嫌だろうから休みはくれるはずだ。
 そう結論を出し、とりあえず舞を終わらせなくてはと舞台を見上げていると後ろから聞き慣れた声が掛けられる。
「……香夜、あなたも舞うのですか?」
 養母の淡々とした声に悪いことをした子供のような気分で振り返る。
「あ、その……長が舞えと……」
 少なくとも自分の意志ではないのだ。言いつけを破るつもりはないのだと訴えた。
 だが、感情の読めない眼差しをした養母は追及するでもなく、無言で近付き持っていた扇を差し出してくる。
「扇もなく舞うつもりですか? それこそみっともないでしょう」
 そう言って受け取れとその扇を香夜の胸に突き出してきた。
 慌てて受け取ると、養母は無言で離れていく。
 養母の意図がつかめず戸惑っていると、鈴華の舞が終わったのだろう。拍手と彼女を褒めたたえる歓声が聞こえてきた。
 皆も鈴華が選ばれるだろうと思っているに違いない。
 里一番の力と美しさを持つ鈴華を里から出すのは忍びないが、名誉なことだと歓声の雰囲気からも感じ取れる。
(尚更私が舞う必要はないんじゃ……)
 香夜はそう思ったが、長の命でもあったし養母も止めはしない。
 この状況で舞わずにいるのは無理だった。
「まあ、あなたも結局舞うの?」
 舞台を降りてきた鈴華がやり切った笑みを嘲笑に変えて言ってくる。
「はい……指定の年齢ならば皆舞えとお付きの方から指摘がありまして……」
「あらそう。まあ、私の後ならあなたの舞がみっともなくても誰も見ていないでしょうから……良かったわね」
 と、ご機嫌そうに鈴華は言う。
 その様子から彼女も選ばれるのは自分だと思っている様に見えた。
(全く……跡取り問題はどうするつもりなのかしら)
 その辺りのことを全く考えていなさそうな鈴華に少しため息をつきたくなった。
 だが、誰も見ていないだろうという言葉には少し安心する。
 確かに鈴華の美しい舞の後ではそこまで注視されることもないだろう。
 ご機嫌な鈴華を見送ってから、香夜は舞台へと上がった。