店内に入るなり、グラスを拭いている青葉君が頬を緩めて「こんばんは百花さん」と私を見つけて声を掛けてくれる。生身の人間に免疫のない私はこのファンサだけで死にそうになる。

私はすっかり青葉 飛弦の強火担だ。誰にも負ける気がしない。



「今夜も来てくれたんですね、嬉しい。モヒートで良いですか?」



ソシャゲから出て来たのかと疑うまでに素晴らしい台詞と表情。CV田丸篤志と云う括弧(かっこ)書きの幻覚すら見えてくる。キュンキュンする心臓を必死に抑えながら頷けば、彼がすぐにミントの葉が揺れるグラスを私の前に置いた。


手まで綺麗だ。何なのこの子、欠点はないの?この子に溺愛されている弟って一体どんな子なのだろうか。顔が綺麗な事だけは間違いない。



「俺、今日が最後なので最後まで百花さんに会えるかなって、正直ソワソワしてました。」

「さては青葉君、誰にでも同じ事言ってるでしょう?」

「百花さんにだけですよ。」



嘘ばっかり。だけど、そんな嘘すら許せてしまうのが悔しい。私なりに揺さぶりをかけたつもりなのに、動揺する様子をこれっぽっちも見せない青葉君が相変わらず年下なのに余裕に満ちている。