「つ、遂に…一週間フルで来てしまった。」



苦笑が滲む私の視界を独占するのは、すっかり見慣れてしまったバーに繋がる扉。無論、青葉君が二週間限定でヘルプに来ているバーである。

今日は友人はいない。否、今の言い方では語弊がある。正確には“今日も”友人はいないの方がとても正しい。友人に誘われて初めてバーと謳われる店に訪れた一週間前のあの日以来、私は連日ここに単独で通っている。


理由なんて一つしかない。青葉 飛弦君がまんまと私の推しになってしまったからだ。



「今月はヲタ活資金ゼロだな。」



この私にゲームに課金をしない月が訪れようとは夢にも思わなかった。でも仕方ない、青葉君に課金するのが大変忙しい。もうアニメもゲームもまるで手に付かない。

彼と初めて顔を合わせた日はものの見事に酒に呑まれて記憶が喪失している。気付けば独り暮らししているアパートの一室に戻っていた。だから、「年上なのに青葉君を困らせてしまったお詫び」そんな建前を理由にここに通っている。


青葉君は実に目の保養だった。こちとら湿度で髪がうねっていたり、仕事終わりで化粧が崩れかけていたりしているのに、青葉君は毎日が完璧な美しさ。しかも末の弟を溺愛しているらしく、どんなお菓子よりも甘い表情で弟の話を披露してくる可愛さまで兼ね備えている。



「何だか寂しいな。」



ここ一週間、振り返ってみるととても楽しかった。私史上最もキラキラしていたと思う。だからなのだ、こんなに寂しいのはきっと、三次元で触れ合った美形が顔だけでなく性格まで私の性癖を突いてきたせいなのだ。



今夜が青葉君のヘルプ最終日。私は経験した事のない寂しさに駆られるがまま、こうしてここに足を運んだ。