彼が吃驚した表情を見せる。相手に断られてしまうのが突然恐くなった私は「や、やっぱり今の無し。冗談」と慌てて放つ。何処までも自分は意気地なしだ。
「無しになんてさせないですよ。」
「え?」
「ていうか百花さん、俺が男だって知ってますか?」
「あ、青葉君?」
「そうやって簡単に家の中に誘って良いんですか?俺、何するか分からないですよ。」
「…きゃっ。」
手首を引き寄せられた拍子に僅かに開いていた扉が閉まり、私の背中は閉じた扉に押し付けられた。冬の匂いを孕んだ風が冷たくて、私の髪も彼の髪も撫でていく。けれど、風に髪を乱された姿すら青葉君は恰好良かった。
「好きです。好きです、百花さん。俺が拾いますよ、俺が百花さんを幸せにします。」
整った顔が、すぐそこにまで迫っている。彼の吐息が私の睫毛を揺らした刹那、自分の唇が熱い体温によって塞がれた。