帰り道、どんな会話をしたのか緊張のせいで正直覚えていない。気が付いたら自分のアパートが目前にあって、オートロックを解除して玄関扉の前に到着していた。
嗚呼、もう本当にお別れなんだ。その現実を漸く受け止めた私は、柄にもなく泣きそうになった。
この一週間は、私の人生の中で一番煌めいていた。お世辞でも大袈裟でもなく、本当にキラキラしていた。青葉君と会うのを糧に仕事をこなしていたし、青葉君からのファンサをモチベに満員電車にも揺られた。
寂しいな。彼と離れるのが酷く寂しい。こんな感情を抱いてしまうくらいなら、軽率に慣れないバーになんて足を運ぶんじゃなかった。こんなに悲しくなるくらいなら、ログインサービスもないのに一週間も通い詰めるんじゃなかった。
「……。」
「……。」
風に乗って香る相手の甘くて優しい香りが心を擽る。私服のセンスまでも自分の容姿の美しさをしっかりと把握しているそれだし、改めて見ても顔は小さいし身長は高いし脚は長い。バーのヘルプなんてしてないでモデルをした方がよっぽど良いのでは?そうしたら私も雑誌を買って青葉君を間接的に養えるのでは?
私の目に映る青葉君は何もかもが完璧で、全くの綻びがない。
「お別れだね。」
「そうですね。」
開錠して玄関扉を開く。名残惜しい。名残惜しくて仕方ない。もっと彼と居たい。もっともっと青葉君と他愛無い会話をしていたい。
「うちに、寄っていかない?」
咄嗟に口から漏れてしまったその誘惑に、顔が熱くなるまでに掛かった時間は一瞬だった。