私が青葉君と知り合ったあの夜の時点で、彼はここのヘルプに来て丁度一週間だった様で、最初の一週間で美形に目がない私の友人に目を付けられ、よく会話をする様になりその中で度々出て来る個性の強い私が気になって会いたくなったらしい。


だから今夜で青葉君と会うのは最後だ。別に一生会えなくなる訳ではない。もしかしたら街中で偶然遭遇するかもしれないし、彼の通っている大学は私の母校なのだからそこへ行けば簡単に会えるのかもしれない。


それでも…それでもこんなに悲しい気持ちに襲われるのは、私が青葉 飛弦の沼に浸かってしまったからだ。こんなにも寂寥で胸が一杯になるのは、久方振りに推せる男を見つけたからだ。それだけだ。



決して、それ以外の理由なんてない。それ以外の理由が……あって良い訳ない。

締め付けられる様な痛みも、彼の言葉一つで跳ねる鼓動も、ただの気のせいだと言い聞かせる。



「百花さんってモヒートしか呑まないですよね。」

「え…あ、うん。カクテルって甘いの多くて苦手だけどモヒートはミントが入ってるから好きなの。」

「ふーん、そうなんですね。それなら、今日から俺も好きなお酒はモヒートって言おうかな。」

「はい?」

「だってそうしたら百花さんとお揃いでしょう?」



鼓膜を揺する甘い台詞に馬鹿みたいに動揺する。阿呆みたいに胸が高鳴るし、死にそうな程に顔が熱くなる。