夜の公園。ベンチに座って待っていると、岸野はやってきた。

「久留巳!」

 アタシは変装用のダテ眼鏡を少しだけずらし、彼と目を合わせる。

「ごめんね、時間とらせちゃって」
「いやいい。けどお前こそ大丈夫か……その、週刊誌とか?」

 岸野はきょろきょろと周囲を見回す。人気アイドルるみさが夜の公園で男と密会! そんな見出しがつくことを恐れているんだろう。

「うん。高校のこと、何にも公表してないからこんな所にいるなんて誰も気づいてないと思う。今の時期なら、アタシたちに張り付いてる記者もいないだろうし」
「そう、か……」

 納得したのか、岸野はアタシの隣に腰を下ろした。

「けどお前こそ、よくここわかったな」
「前にファミレスでバイトしてるって言ったじゃん。あの時何となく聞いた場所だと、あの店しかなかったし……」

 岸野が今日、シフトを入れてる確証なんてなかったけど、藁にすがる思いで店へ行ってみた。

「先輩たち、混乱してたわ。あのるみさが自分の店に来たんだから」
「同じクラスだってこととか、言ってなかったんだ?」
「なんの自慢にもならないし、むしろサインもらってくれとか、そんな感じで面倒くさいだけだろ」

 いつも通りのぶっきらぼうな口調で応える。マスクと眼鏡と帽子。お決まりの変装三点セットを付けていても、わかる人にはわかってしまうらしい。岸野は水を注ぎに来るふりをして、バイトが終わる時間とこの公園の場所のメモ書きを残してくれた。

「で、どうした?」
「うん……アンタの言うとおりだったわ」
「俺、何か言ったか?」
「言ったじゃん、深追いするなって。本当にそう……」

 アタシは、リリイベの後に起きたことを話し始めた。