あの日、久留巳の話を公園で聞いてからひと月が経った。
あの直後、久留巳は学校だけでなく、アイドル活動も一週間だけ休んだらしい。けど、その一週間で自分の気持ちを整理することができたそうだ。翌週、学校に来た久留巳はどこかすっきりしたような顔をしていた。そこから一か月、何も変わっていない。週に1~2回学校にきて、昼休みに購買で俺のノートをコピーする。ちょうど今と同じように。
「ホント、岸野がいてくれて助かるよ。いつもありがとうございます」
久留巳はそう言ってぺこりと頭を下げた。
「別に。むしろ、人に見せることを考えてノートをとる分、俺の頭も整理されるから……」
内心でしまった、と思う。もっと朗らかに応えればよかったかもしれない。久留巳の前だと、どうしても冷たい感じになってしまう。
「いつもしてもらったりは悪いし、アタシたまにはお礼したいんだけど……そうだ! 今度のリリイベ、関係者席用意しよっか?」
「いいよそんなの。アイドルに興味ないし……」
「アンタ、アタシの前でそういうこと言っちゃうわけ?」
あきれ顔の久留巳。嘘をついた。本当は〈パスデビ〉のCDは全部持っている。けど、リリースイベントに行きたいとかそういう気持ちはない。増して関係者席なんて……。特別扱いされるのが嫌だ、というのももちろんあるけどそれ以上に、その席の周囲にいるだろうある人物を見て平静を保てる自信がない……。
「それにさ、他にもお礼したいことがあるんだ」
「他にも?」
「ホラ、例の件……なんだけど」
久留巳が少し憂いを帯びた顔で言った。例の件、彼女のこの雰囲気から思い浮かべるなら、きっとあの夜の公園の件だろう。
「ひわ……ウチのマネージャーがさ、家族とやり直す方向で動き始めたんだって」
「……そうか」
確か、弁護士を通して話をするとか言ってたな。ということは冷静な話し合いが進み始めたということか。
「もちろん先は長いらしいけど、条件付きで深宇ちゃんと……娘さんと会えるようになったらしくて。それで、本当に感謝してる」
「なんで俺が? その件には何も関係ないだろ?」
「大ありだよ。あそこでアンタがいなければ、アタシ絶対に暴走してた。それで〈パスデビ〉も、あの人も、あの人の家族も、アタシ自身も滅茶苦茶になったかもしれない……」
久留巳は苦笑する。
「それをギリギリのところで踏みとどまれたのは、アンタがいてくれたからだよ! マジ救世主だから!」
「……お前はそれでいいのか?」
「アタシ? ……うん!」
決意に満ちているがどこか切ない顔を、彼女は縦に振った。
「今でも好きだよ。大好き! でも、そこから先に進むことはないよ。いろいろ考えて……そう決めたから!」
「……そうか」
あの直後、久留巳は学校だけでなく、アイドル活動も一週間だけ休んだらしい。けど、その一週間で自分の気持ちを整理することができたそうだ。翌週、学校に来た久留巳はどこかすっきりしたような顔をしていた。そこから一か月、何も変わっていない。週に1~2回学校にきて、昼休みに購買で俺のノートをコピーする。ちょうど今と同じように。
「ホント、岸野がいてくれて助かるよ。いつもありがとうございます」
久留巳はそう言ってぺこりと頭を下げた。
「別に。むしろ、人に見せることを考えてノートをとる分、俺の頭も整理されるから……」
内心でしまった、と思う。もっと朗らかに応えればよかったかもしれない。久留巳の前だと、どうしても冷たい感じになってしまう。
「いつもしてもらったりは悪いし、アタシたまにはお礼したいんだけど……そうだ! 今度のリリイベ、関係者席用意しよっか?」
「いいよそんなの。アイドルに興味ないし……」
「アンタ、アタシの前でそういうこと言っちゃうわけ?」
あきれ顔の久留巳。嘘をついた。本当は〈パスデビ〉のCDは全部持っている。けど、リリースイベントに行きたいとかそういう気持ちはない。増して関係者席なんて……。特別扱いされるのが嫌だ、というのももちろんあるけどそれ以上に、その席の周囲にいるだろうある人物を見て平静を保てる自信がない……。
「それにさ、他にもお礼したいことがあるんだ」
「他にも?」
「ホラ、例の件……なんだけど」
久留巳が少し憂いを帯びた顔で言った。例の件、彼女のこの雰囲気から思い浮かべるなら、きっとあの夜の公園の件だろう。
「ひわ……ウチのマネージャーがさ、家族とやり直す方向で動き始めたんだって」
「……そうか」
確か、弁護士を通して話をするとか言ってたな。ということは冷静な話し合いが進み始めたということか。
「もちろん先は長いらしいけど、条件付きで深宇ちゃんと……娘さんと会えるようになったらしくて。それで、本当に感謝してる」
「なんで俺が? その件には何も関係ないだろ?」
「大ありだよ。あそこでアンタがいなければ、アタシ絶対に暴走してた。それで〈パスデビ〉も、あの人も、あの人の家族も、アタシ自身も滅茶苦茶になったかもしれない……」
久留巳は苦笑する。
「それをギリギリのところで踏みとどまれたのは、アンタがいてくれたからだよ! マジ救世主だから!」
「……お前はそれでいいのか?」
「アタシ? ……うん!」
決意に満ちているがどこか切ない顔を、彼女は縦に振った。
「今でも好きだよ。大好き! でも、そこから先に進むことはないよ。いろいろ考えて……そう決めたから!」
「……そうか」