どうやら絢子の部屋は二階にあるようで階段を上る。
突き当りの部屋に到着すると、「ここです」と短く京一郎が言った。

「お部屋まで…本当にありがとうございます」
「ふふ、まだ緊張しているんですね。早く慣れてくださいね」

 開かれたドアの向こうには、書生の身としては十分すぎる光景が広がる。京一郎の部屋とは違って洋館のようだった。

 長机にソファ、書き物机もある。大きなクローゼットもあるようだが、絢子が持参してきた荷物は少ない。
一人用の寝台もある。

まるで自分がお姫様になった気分だ。
(ダメよ、医師になるために帝都まで来たのだから。勉強だけ、とにかく勉強だけ頑張らなけらば)

小さく頷いていると「どうかしましたか?」と顔を覗き込まれた。
「い、いえ…!」
「何か不明点があれば女中たちか僕に聞いてください」

 今まで勉強しかしてこなかった絢子にとって目の前にいる眉目秀麗な男性に近づかれるだけで心臓が早鐘を打つのは当然だ。


これが京一郎との出会いだった。