ユウヒはそれ以来、確実に現れる頻度が下がってしまった。
まるで、私にもう会いたくないかのように。
「どうして最近ユウヒは来てくれないの? 寂しいじゃん」
相変わらず私に見せてくれないスケッチブックに、絵を描きながらユウヒは曖昧に笑う。
「幽霊は気まぐれだから」
「都合よく誤魔化さないでよ」
「じゃあ、本当のこと言ったら有里は受け入れてくれるわけ?」
一瞬、固まる。聞き間違いじゃない。私の本名だ……。
「待って、私の本名なんで知ってるの?」
「聞き間違いじゃない?」
ぷいっと目線を逸らして、ユウヒは髪の毛を弄る。ユウヒが誤魔化したい時のサインだ。
「はっきり言ってよ」
「はっきり言ったら、俺たちの関係は終わるよ」
「わからないじゃん」
「わかるよ」
切なさそうな瞳に、頬にかかる髪の毛に、息が詰まる。あんなに楽しかったのに。2人きりの放課後の時間が特別でキラキラして見えていたのに、今は少ししんどい。
「これからも、友達でいたい。だから、教えてよ」
「なにを」
「ユウヒが幽霊になった理由とか」
「引くよ」
「引かないよ!」
自信満々に言い張って、頷く。ユウヒの目を見つめれば、軽いため息をついて幽霊になった理由を話し始めた。
「有里が気づいてるか、はわからないけど。俺はちょっと変わってるんだ。本当の姿は、俺じゃない。両親はそれを変だと言ったし、普通に戻ってくれって毎回泣くんだ」
「ちょっと変わってるってどういうこと?」
ユウヒがためらいがちに告げる。
「……体は女」
「え?」
「だから、生物学上では女だし、学校にも女として通ってる。だから、ユウヒはこの世には存在しない。俺は、有里に会ったあの日に死んだ存在ってわけ」
思いもよらない告白に、返事に戸惑う。でも、私を戸惑わせるユウヒの告白はここでは終わらなかった。
「有里と会うたびに、有里にだんだん心惹かれていくし。有里の、ことを好きになっていくのに俺は女だから」
「ユウヒ待って、女だからとかじゃないの。ごめんなさい、私、好きになる気持ちがわからないの」
ぽつりと返せば、ユウヒは私が断るための言葉だと受け取ったらしい。違うのほんとに、好きがわからないのに。
ユウヒのことは友達で居たい。この関係を続けたいと思っているのに。
「もう、いいよ。大丈夫。有里の前に化けて出ないから安心して」
「待って、ユウヒ違うの。本当なの」
「どっちでもいいよ、俺の気持ちは届かないってことだけはわかるから」
ユウヒの言葉に、もう否定の言葉は何も生み出せなかった。ユウヒの気持ちに応えることは、できない。本当は女だったからとか、関係なくただ、恋愛感情がわからないからという理由ではあるけど。
「有里は、有里らしく楽しく過ごして」
その言葉を最後にユウヒは、私の前に現れなくなった。
ユウヒとただ友達で居たかっただけなのに、ユウヒが何かを抱えているのを分かっていながらみぬけなかった。間抜けな私のせいで。楽しい時間は終わりを告げた。
クラスメイトの横顔を見ながらユウヒの面影を探す。でも、思い当たる人はいない。化粧とウィッグだけでそんなに変わるもんだろうか。
それに探したとして、私はユウヒに何を伝えるのだろう。
わからないまま、ぼんやりとユウヒの面影をクラスの中に探していた。
<了>
まるで、私にもう会いたくないかのように。
「どうして最近ユウヒは来てくれないの? 寂しいじゃん」
相変わらず私に見せてくれないスケッチブックに、絵を描きながらユウヒは曖昧に笑う。
「幽霊は気まぐれだから」
「都合よく誤魔化さないでよ」
「じゃあ、本当のこと言ったら有里は受け入れてくれるわけ?」
一瞬、固まる。聞き間違いじゃない。私の本名だ……。
「待って、私の本名なんで知ってるの?」
「聞き間違いじゃない?」
ぷいっと目線を逸らして、ユウヒは髪の毛を弄る。ユウヒが誤魔化したい時のサインだ。
「はっきり言ってよ」
「はっきり言ったら、俺たちの関係は終わるよ」
「わからないじゃん」
「わかるよ」
切なさそうな瞳に、頬にかかる髪の毛に、息が詰まる。あんなに楽しかったのに。2人きりの放課後の時間が特別でキラキラして見えていたのに、今は少ししんどい。
「これからも、友達でいたい。だから、教えてよ」
「なにを」
「ユウヒが幽霊になった理由とか」
「引くよ」
「引かないよ!」
自信満々に言い張って、頷く。ユウヒの目を見つめれば、軽いため息をついて幽霊になった理由を話し始めた。
「有里が気づいてるか、はわからないけど。俺はちょっと変わってるんだ。本当の姿は、俺じゃない。両親はそれを変だと言ったし、普通に戻ってくれって毎回泣くんだ」
「ちょっと変わってるってどういうこと?」
ユウヒがためらいがちに告げる。
「……体は女」
「え?」
「だから、生物学上では女だし、学校にも女として通ってる。だから、ユウヒはこの世には存在しない。俺は、有里に会ったあの日に死んだ存在ってわけ」
思いもよらない告白に、返事に戸惑う。でも、私を戸惑わせるユウヒの告白はここでは終わらなかった。
「有里と会うたびに、有里にだんだん心惹かれていくし。有里の、ことを好きになっていくのに俺は女だから」
「ユウヒ待って、女だからとかじゃないの。ごめんなさい、私、好きになる気持ちがわからないの」
ぽつりと返せば、ユウヒは私が断るための言葉だと受け取ったらしい。違うのほんとに、好きがわからないのに。
ユウヒのことは友達で居たい。この関係を続けたいと思っているのに。
「もう、いいよ。大丈夫。有里の前に化けて出ないから安心して」
「待って、ユウヒ違うの。本当なの」
「どっちでもいいよ、俺の気持ちは届かないってことだけはわかるから」
ユウヒの言葉に、もう否定の言葉は何も生み出せなかった。ユウヒの気持ちに応えることは、できない。本当は女だったからとか、関係なくただ、恋愛感情がわからないからという理由ではあるけど。
「有里は、有里らしく楽しく過ごして」
その言葉を最後にユウヒは、私の前に現れなくなった。
ユウヒとただ友達で居たかっただけなのに、ユウヒが何かを抱えているのを分かっていながらみぬけなかった。間抜けな私のせいで。楽しい時間は終わりを告げた。
クラスメイトの横顔を見ながらユウヒの面影を探す。でも、思い当たる人はいない。化粧とウィッグだけでそんなに変わるもんだろうか。
それに探したとして、私はユウヒに何を伝えるのだろう。
わからないまま、ぼんやりとユウヒの面影をクラスの中に探していた。
<了>