なにも朝陽の恋は今回が初めてではない。
過去に何回かあった。
いずれもその相手は私ではない。
だけどどの恋も、長くは続かなかった。
朝陽の心に生まれたばかりの淡い色の灯を、私が早々に消しにかかっていたのだから。

「どうせちょっと優しくされて勘違いしてるんでしょ?」
「あの子、他に好きな子いるらしいよ」
「朝陽に告白とかできるの? 絶対無理でしょ」

自分でも最低なことをしていると思っている。
だけど、朝陽が私以外の子を見てるとか、許せなかった。
自分勝手だってわかってる。
だけど私がそう言うと、朝陽も「だよね」って弱々しく笑ってすぐに諦める。
そんな気持ち、忘れてしまったかのように。
まるで、自分の心にははじめから何も芽生えていなかったかのように。
こうして朝陽の恋の火は消える。
それ以降、朝陽からそのコイバナについて持ち出されることはなくなる、というわけだ。

今回も、あの日、あの夜以来、朝陽の口から「彼女」と言う言葉が放たれることはなかった。
その代わりなのか、朝陽の話題に上るようになったのが「あいつ」だった。