「うっ……」

 渡された書類で、誰にも見られないよう顔を隠す。

それでもどうしても声を抑えることが出来なくて、その場にしゃがみ込んだ。

 だって、どうしようもないじゃない。

腰のこん棒を見て、クスクス笑う連中がいる。

この校内でだ。

どうして? 泣いてる場合なんかじゃないのに。

 あたしは立ち上がると、張り出してあった新入部員勧誘のポスターを引き剥がした。

金太郎の作ったポスターはとてもよく出来ていて、一緒に並ぶ他のどのポスターよりもカッコよくて、とてもよく人の目を引いていた。

部活アカウントの更新は、閲覧は出来るけど、もう止められている。

更新が出来ない。

まだまだ撮りだめした画像があったはずなのに、それがこのタイムラインに載せられることも、もうない。

あれだけ苦労して勝ち取った演武場の使用許可は、知らないあいだに取り消され、利用希望部に対する抽選会の開催予定が、ネット掲示板に表示されていた。

「なんでこんなこと……」

 昼休みの廊下は人通りも多くて、あたしに声をかけてくる人は誰もいなくって、ここでどれだけ叫んだり暴れたりしたって、もう何にも変えることは出来ないし、変わらない。

「こんなところでうずくまってちゃ、邪魔よ。どきなさい」

 ため息と共に、そんな声が聞こえてくる。

見上げると堀川が立っていた。

いつも弾け飛びそうなパツパツのシャツを着て、ムチムチのミニスカートで闊歩していた堀川が、パンツスタイルのまともで普通な格好をしている。

「なんで無駄にエロい服やめたの?」

「やっぱあんたたちも、そんな目で見てたんだ」

 堀川はボリボリと頭を掻く。

あたしと同じ目線にしゃがみ込んだ。

「いやー。女子校ってさ、女の子ばっかで、いいところも多いけど、逆におかしいとかヘンだってとか、そういうのも、誰もなんにも言わないじゃない? 私は家にある、着られる服を着てただけだったんだよね。買いに行くのも面倒くさかったから」

 堀川の顔は、ちょっぴり赤くなっていた。

「でもさぁ、さすがに服がキツくなってきて、動きにくいもんだから、思い切って全部買い換えたんだよね。そしたらまぁ、びっくりするほど動きが楽で楽で」

 堀川は泣いているあたしをじっと見た。

「自分の着てた服、ぶっちゃけ高校、大学時代から変わってなかったんだよね。太ってないしまだ着られるし。もったいないとか思ってたけど、やっぱ体型変わってたわ」

 あたしは鼻水をすすり、頬に流れる涙をぬぐった。

その堀川の胸には、この学校で唯一変わらなかった校章の、その教員バッチがついている。

「先生が最後の部長だったって、本当?」

「そうですよ。かわいい後輩ちゃん」

 堀川は立ち上がった。

体型が変わったとか言ってるけど、そのスラリとしたパンツスーツと、ぴったりしたシャツはとてもよく似合う。

「『堀川先生って、ああいう格好が好きでやってるのかと思ってました』って、言われたわ」

「……。誰に?」

「内緒」

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。

「あんたも早く、教室戻りなさい。これからどうするのか、自分でちゃんと考えるのよ」

 そんなこと言われたら、せっかく泣き止んでたのに、また泣きそうになる。

そうやってあたしが一日中グズグズしている間に、すぐ放課後になってしまった。

今日は鬼退治部の今後についてどうするのかっていう、大事な話をしなくちゃいけないってのに、桃たちは刀の返納に行くと言う。