新入部員の勧誘は、思いのほか手こずっていた。

そもそも「鬼退治」という行為自体が、すでに流行っていないのだから仕方がない。

腰にぶら下がる刀もこん棒も、興味のない人たちから見れば、ただ邪魔で迷惑なものでしかないようだ。

「まぁ確かに、そう言われればそうなんだけどねー」

 家庭科の調理実習中でも、その状況は変わらない。

「だったら外せよ」

 同じクラスの男子、中くらいのは、わざとなのか特にそういうつもりでもないのか、小さく舌打ちする。

「は? なに? 文句でもあんの?」

「……。いや、別に……」

 あたしがにらみつけたら、中くらいのはムッとして静かになった。

まぁそう言いたくなる気持ちも、分からなくはない。

だってあたしといっちーとさーちゃんとキジが、4人揃って同じ調理実習グループだ。

最近はさーちゃんもキジも普通にこん棒を差してるから、そりゃ邪魔だわな。

中くらいのといつも一緒にいる、細いのと丸いのも同じグループだ。

「えっと、煮干しの量って、これでいいのかな」

 細いのがいっちーに尋ねる。

どうして高校の家庭科で、ご飯に味噌汁、ポテトサラダとオムライスを作らなくてはならないのか。

しかも出汁は市販の粉じゃないなんて。

「うん、いいと思う」

「そっか。ありがと」

 さーちゃんは鼻歌交じりでジャカジャカ米を研ぐと、炊飯器にセットした。

「だけどさぁ、土鍋で米炊けとか言われなくてよかったよねー」

「それはやりすぎでしょ」

 あたしはため息をつく。

丸いのがジャガイモの皮をむくのに苦戦している横で、キジはキュウリを切っている。

丸いのが小さな声で「うわっ」とか「あれっ?」とか言う度に、彼女はいちいち、体をビクビクと震わせていた。

「あ、雉沼さん。ジャガイモの芽って、こんくらい取ったんでいいかな」

 そうやって見せられただけなのに、キジは丸いのをにらみつける。

「は? 何か用?」

「よ、用っていうか何ていうか……」

「私に話しかけないでくれる?」

「え? えっ? えっと、その、ジャガイモの芽が……」

 キジの振り上げた包丁が、まな板の上のキュウリを一刀両断して弾き飛ばす。

「……。話しかけないでって言ったよね……」

 丸いのは明らかに動揺し困惑している。

まぁ気持ちは分かるが、どうしようもない。

彼には自分がなぜこんなにも嫌われているのか、それが分からないのだろう。

いや、むしろキミは何も悪くなくって、キジは個人としてのキミが嫌いなのではなく、とにかくそこに属している全てのものが気に入らないってだけで、それはキジ自身の個人的な感情で、だから丸いのがキジの態度を気にする必要はないのだけど……。

そんなコト、言われてもねぇ?

キジは丸いのを無視して、無心にキュウリを刻み始めた。

あっという間にその作業を終えると、今度はタマネギに取りかかる。

丸いのはどうしていいのか分からず、困っていた。

見かねたさーちゃんが丸いのとキジの間に入り込む。

「ゴメンね、キジは人見知りが激しいから」

「う、うん。なんかいつもそんな感じだよね」

 丸いのが放った何気ない言葉に、キジはさらにイラついてしまった。

「は? どういうこと? いっつもこっち見てんの?」

 ケンカ腰のキジがにらみつける。

「ジロジロ見てんじゃねーよ、キモ……」

「あぁ! ジャガイモの皮って、むくの慣れないと難しいよね! ピーラーってどこ?」

 キジの言ってはならない言葉を、さーちゃんがギリギリで封じ込めた。

いっちーに助けを求めるように見上げる。

「実習中は、ピーラー禁止なんだってさ」

「は? マジで」

「どうしよっか……」

 雰囲気を察したいっちーは、ジャガイモを手にとった。

「じゃ、みんなでまとめてやろう」

 いっちーとさーちゃんとキジと、丸いのと細いのが作業しているのを、あたしと中くらいのは並んで眺めている。

中くらいのがつぶやいた。

「お前も手伝えよ」

「あんたもね」

「俺は食べるの専門だから」

「あたしもだっつーの」

 いっちーはそんなあたしたちを、上からにらみつける。

「お前らも、やれ」

「あ、あたしは火起こしと片付け専門です!」

「今回は火起こしないけど」

「じゃ、洗いものはする」

 いっちーは黙って、一つうなずいた。

あたしは中くらいのを、肘で一発ドカリとぶつ。

「お前もそうだからな」

 その衝撃が強すぎたのか、中くらいのはやたらめったら大げさに痛がっていた。

「そんな乱暴にする必要ないだろ」

「してねーって」

「痛いから」

「お前も片付けな」

「ちっ。分かってるよ」

 そんな中くらいのを、キジは異界の生物でも見ているような、嫌悪感満載の目でにらむ。

中くらいのは、そんなキジにすっかりどん引いてしまった。