「先生、学校の印刷機って、使えるんですか?」

「『部活』になったからね!」

 細木はうれしそうにグッと親指を突き出し、盛大にニヤリと笑った。

「今日はもう練習はしないの?」

 細木は今度は、桃の前に座る。

「だから今日は、教室で会議だって言ったじゃないですか」

 桃はうれしそうに答えた。

「こないだ先生からもらったアドバイス、めっちゃ分かりやすかったです。抜刀の時の手首の返し方とか……」

「鬼ってさ、ある程度は習性みたいなのがあって……」

 細木は桃と鬼退治の話しをしている。

なにそれ。

いつの間に細木とこんな仲良くなった? 

あたしは細木に、鬼退治の仕方とか教えてもらったことない。

「なにコレ」

 男子3人と楽しそうに話している細木と、その光景に思わず声が出る。

隣に座っていたキジと目が合った。

「なにアレ」

 もう一度声に出す。

キジは少しうつむいただけだった。

「私は……、ももの気持ち、分かるよ」

 その細木がこっちに顔を向けた。

「花田ぁ~。お前ってホントになんも考えてなかったんだなぁ」

 そんなことを言いながら、上からため息をつく。

「だからいっつも問題起こすなよって、言ってたのに」

「は?」

「今まで、なにやってたんだよ。お前はサークル起ち上げたたけで満足だった?」

 細木が笑ったら、そこにいた男どもも笑った。

「そんなんでよく部長とか自分で言ってられるよな。まわりのことも、ちょっとは考えろよ。こんだけ手伝ってもらって、やっとじゃねぇか。そんなんだから今までろくに部員も集められないんだよ。活動だってロクにしてこなかっただろ。だから俺は……」

 あたしはガタリと立ち上がった。

「イツ、ダレガ? アンタに迷惑かけた?」

 机をドカンと踏みつける。

細木は一瞬、あたしの知っている顔になった。

「あんたこそ、何しに来た? 今さら顧問ヅラされても、こっちも迷惑だっつーの」

 机に足をかけた今のあたしは、細木より視線が高い。

「キライでしょ? ホントは鬼退治。他の先生から無理矢理押しつけられて、迷惑してたんでしょ? だったら来んなよ。なんで部に昇格させた? あんた、あたしの顔見るたびに、いっつも言ってたじゃん。『こんなサークル、いつでも潰してやる』って」

「……。そんなつもりで言ってたんじゃない」

「だったらどういうツモリなんだよ!」

 机を蹴飛ばした。

「テメーがうちらを嫌ってることくらい、最初っから知ってんだよ! 言えばいいじゃん、さっさと辞めろって。お前ヤメロ席譲れって。ずっと嫌がってたでしょ? うちらの前で、あたしたちのこと!」

 細木の顔はすっかり青ざめ、硬直している。

「花田さん。先生は、机を蹴飛ばすのは、よくないと思います」

「っんだと、コノ野郎!」

 腰のこん棒を抜く。

「わぁ! ももちゃん、ちょっと待った!」

 桃が後ろからあたしを押さえつけた。

羽交い締めにされて、身動きが取れなくなる。

「あたしに触るな!」

 桃を振り払い、こん棒を振り回す。

彼はパッと離れ、すぐさま両手を挙げた。

ハンズアップ。万歳。

あたしはそのこん棒を細木に突きつける。

「ももちゃん、ここ教室!」

 止めようとする金太郎を、あたしはにらみつけた。

「あんたたちは黙ってて」

 あたしの用があるのは、コイツだけだ。

「そうやってイイ面見せといて、どこで裏切るつもり? やっとあんたの、自分で好きなようにできるって? 味方が出来た? あぁそう、そりゃよかったよね。だけどね……」

 こん棒を構えなおした。

「あたしがここにいる間は、絶対にあんたなんかに渡すつもりはないから。本気であたしに問題起こされたくないんだったら、今すぐこっから出て行け。お前にこのまま黙って奪われるくらいなら、こっちからぶっ潰してやる。それが嫌なら、二度とあたしに顔見せんじゃねぇぞ!」

 細木は動かない。

じっと黙ったまま、その場に立ち尽くしている。

くそっ、マジでどうしてやろうか。

そう思った瞬間、ヤツは背を向けた。

「悪かった。俺はもう出来るだけ関わらない。今まで通り、お前たちだけで好きなようにやれ」

 教室を出て行く。

あたしはその物言いと後ろ姿に、またイラッとしている。

浦島が走り出した。

「先生!」

 すぐに金太郎もその後を追いかけ、桃も出て行ってしまった。

急に辺りが静かになって、窓から吹き込んだ風が作りかけの書類を飛ばす。

いっちーはそれを拾った。

「もも」

 名前を呼ばれただけなのに、それだけのことなのに、無性に腹が立つ。

どうしてあいつらがここに入学してきたんだとか、アレが桃たちばかりをかわいがることとか、そんなことは彼女には一切関係ないのに、これ以上なにかをしゃべったら、その全てをいっちーのせいにしてしまいそう。