「ももはさ……」
いっちーもあたしも、荒い呼吸をつき汗をかいていた。
「なに?」
いっちーは、すぐ横にあった自販機前の椅子にドカッと腰を下ろした。
あたしはここでまた走り出したら、今度は確実に撒けるなーとか、でも教室の鞄の前で張られてたら終わるなーとか、そんなことばかりを考えている。
「最近、私のこと避けてる?」
そんなこと言われて、座りたくない。
「避けてない」
彼女があたしを見上げていることに、ずっと落ち着かない。
「なんで? なんでそんなこと聞くの?」
「なんかそんな気がした」
あたしは背中をまっすぐに伸ばす。
少し離れた位置から彼女を見ている。
「細木にね、呼び出されてたんだ」
「なんか言われた?」
「部に昇格するって」
本当だったら、いっちーと大喜びしてたんだろうな。
だけど素直に喜べない理由は、知っているような気もするけど、知らない。
「そっか。他には?」
「……。別に」
いっちーの目が、あたしに座らないのかと訴えかけている。
あたしは仕方なくそこに座る。
「練習メニュー、どうしようか」
「うちらはもう三年になったし、他の部だと引退だよ」
「じゃあ誰が続けんの」
細木になんて、渡したくない。
なのに、どうしようもない。
「一年とか二年が入ってくれればいいんだけど」
学校の改装工事が終わらないから、全部活の開始が遅れている。
「そろそろちゃんとしないと」
「うん。ダンス部引退したから、さーちゃんとキジも手伝ってくれるって。色々聞けるし、いいんじゃない」
「だね。……。細木にも、そうやって言われた」
「そっか」
事務的な会話に、あたしは顔を背ける。
ガラス張りの向こうから差す日差しは、もう赤く傾いていて、完全下校の時間も近い。
「もも、今日は一緒に帰ろう」
そんなこと、いちいち誘ってこなくても、前までは当たり前にそうしていたのに……。
「うん。なんか久しぶりだね」
いっちーのスマホに連絡が入って、あたしたちの荷物を持った桃たちが校門の前で待ってくれているらしい。
「そんな連絡まで来るんだ」
「もう正門一つじゃないから」
いっちーが返信を打っている。
仕方なくいっちーの背中を見ながら、そこへ向かう。
桃たち3人と、さーちゃんとキジまでいた。
「ねぇ、アイス食べて帰ろうよ」
桃に話しかけられる。
「それとも、まだ少し寒いから、たこ焼きの方がいいかな」
どうしてそんなこと、わざわざ聞いてくるんだろう。
あたしは金太郎から鞄とこん棒を受け取った。
「桃たちの行きたいところでいいよ」
「じゃ、ももの行きたいところがいい」
そう言って桃は、にこっと微笑む。
「ももの行きたいところへ、俺たちを連れてって」
あたしが望むも望まないも、どうにもならないことはどうにもならない。
大きく息を吸ってから、ピタリとそれを止めた。
「ねぇ、鬼退治部、入る?」
それはずっと避けていた言葉。
あたしは桃たち三人を見上げる。
「入ってもいいの?」
「いいよ。部員を勧誘しないといけないの。一緒に手伝ってくれる?」
彼らは3人はパッと目を合わせた。
「もちろん!」
そうやってうれしそうにしているのが、本当は何だか寂しい。
さーちゃんがあたしの首に巻き付いてきた。
「なによ、私とキジにもちゃんと頼みなさいよ!」
少し伸びた髪をライオンみたいにトゲトゲにしてから、ガチガチに固めてある。
それがほっぺたに刺さってちょっと痛い。
「さーちゃんとキジは、ヤダって言ってもやってもらうつもりだったから、いいの」
「なんだそれ」
さーちゃんが笑った。
「じゃあ、いつものフードコートへ行きますか?」
「うん」
7人になったあたしたちが歩き出す。
駅前広場に、駅バァがいた。
レンガで囲まれた花壇に、誰かの手によって植えられたただ大人しく咲き誇る花たちの脇に座っている。
そういえば最近、駅バァの怒鳴り声も聞いてないな。
だけどそんなことを気にしているのは、この世であたし一人だけなのかも知れない。
フードコートであたしたちは、たこ焼きとアイスを食べた。
いっちーもあたしも、荒い呼吸をつき汗をかいていた。
「なに?」
いっちーは、すぐ横にあった自販機前の椅子にドカッと腰を下ろした。
あたしはここでまた走り出したら、今度は確実に撒けるなーとか、でも教室の鞄の前で張られてたら終わるなーとか、そんなことばかりを考えている。
「最近、私のこと避けてる?」
そんなこと言われて、座りたくない。
「避けてない」
彼女があたしを見上げていることに、ずっと落ち着かない。
「なんで? なんでそんなこと聞くの?」
「なんかそんな気がした」
あたしは背中をまっすぐに伸ばす。
少し離れた位置から彼女を見ている。
「細木にね、呼び出されてたんだ」
「なんか言われた?」
「部に昇格するって」
本当だったら、いっちーと大喜びしてたんだろうな。
だけど素直に喜べない理由は、知っているような気もするけど、知らない。
「そっか。他には?」
「……。別に」
いっちーの目が、あたしに座らないのかと訴えかけている。
あたしは仕方なくそこに座る。
「練習メニュー、どうしようか」
「うちらはもう三年になったし、他の部だと引退だよ」
「じゃあ誰が続けんの」
細木になんて、渡したくない。
なのに、どうしようもない。
「一年とか二年が入ってくれればいいんだけど」
学校の改装工事が終わらないから、全部活の開始が遅れている。
「そろそろちゃんとしないと」
「うん。ダンス部引退したから、さーちゃんとキジも手伝ってくれるって。色々聞けるし、いいんじゃない」
「だね。……。細木にも、そうやって言われた」
「そっか」
事務的な会話に、あたしは顔を背ける。
ガラス張りの向こうから差す日差しは、もう赤く傾いていて、完全下校の時間も近い。
「もも、今日は一緒に帰ろう」
そんなこと、いちいち誘ってこなくても、前までは当たり前にそうしていたのに……。
「うん。なんか久しぶりだね」
いっちーのスマホに連絡が入って、あたしたちの荷物を持った桃たちが校門の前で待ってくれているらしい。
「そんな連絡まで来るんだ」
「もう正門一つじゃないから」
いっちーが返信を打っている。
仕方なくいっちーの背中を見ながら、そこへ向かう。
桃たち3人と、さーちゃんとキジまでいた。
「ねぇ、アイス食べて帰ろうよ」
桃に話しかけられる。
「それとも、まだ少し寒いから、たこ焼きの方がいいかな」
どうしてそんなこと、わざわざ聞いてくるんだろう。
あたしは金太郎から鞄とこん棒を受け取った。
「桃たちの行きたいところでいいよ」
「じゃ、ももの行きたいところがいい」
そう言って桃は、にこっと微笑む。
「ももの行きたいところへ、俺たちを連れてって」
あたしが望むも望まないも、どうにもならないことはどうにもならない。
大きく息を吸ってから、ピタリとそれを止めた。
「ねぇ、鬼退治部、入る?」
それはずっと避けていた言葉。
あたしは桃たち三人を見上げる。
「入ってもいいの?」
「いいよ。部員を勧誘しないといけないの。一緒に手伝ってくれる?」
彼らは3人はパッと目を合わせた。
「もちろん!」
そうやってうれしそうにしているのが、本当は何だか寂しい。
さーちゃんがあたしの首に巻き付いてきた。
「なによ、私とキジにもちゃんと頼みなさいよ!」
少し伸びた髪をライオンみたいにトゲトゲにしてから、ガチガチに固めてある。
それがほっぺたに刺さってちょっと痛い。
「さーちゃんとキジは、ヤダって言ってもやってもらうつもりだったから、いいの」
「なんだそれ」
さーちゃんが笑った。
「じゃあ、いつものフードコートへ行きますか?」
「うん」
7人になったあたしたちが歩き出す。
駅前広場に、駅バァがいた。
レンガで囲まれた花壇に、誰かの手によって植えられたただ大人しく咲き誇る花たちの脇に座っている。
そういえば最近、駅バァの怒鳴り声も聞いてないな。
だけどそんなことを気にしているのは、この世であたし一人だけなのかも知れない。
フードコートであたしたちは、たこ焼きとアイスを食べた。