「明日はお昼、一緒に食べようって。桃たちが」

 だからどうして、そんなことをあたしに聞くんだろう。

「え、別にどっちでもいいんだけど」

「金太郎と浦島が、みんなにお弁当作ってくるって。さーちゃんとキジも誘ってる」

 あたしはそれにもまた、どういう反応をしていいのか分からないから、「うん」とだけうなずいておいた。

学校工事の資材置き場にされてしまった演武場は、まだ使えない。

本当だったら、いっちーと練習したいんだけどな……。

「……。まぁ、昼休みだけなんだったらいいか」

「なにが?」

「ううん。なんでもない」

 面倒くさい。

そんな面倒な明日なんて来なければいいと思っていたのに、やっぱり次の日というのはやってきて、どうなるのかと思っていたけど、その日は天気もよくて、なぜか校内の芝生の上で、みんなでお弁当を食べた。

立派な重箱に詰められたそれは、料理の得意な金太郎と浦島が作ったんだって。桃も手伝いはしたらしい。

普通にどうでもいい話しをして、いっちーとかは笑っていたけど、みんなは楽しそうにしていたから、それはそれでよかったと思っている。

細木に呼び出されたのは、その放課後だった。

「ようやく演武場が使えるようになったぞ」

 担任を持つようになったから、今は体育科準備室の机の下ではなく、職員室にいる。

「うっそ、ホント!」

「新入部員の受け入れ準備しとけよ」

「え?」

 細木はニヤリと笑った。

「今年度から、サークルから部へと昇格だ」

「やったー!」

 生まれて初めて細木がエライと思った。

あたしは教室に駆け込む。

「いっちー!」

 飛び込んだ教室には、いっちーと腰に刀をぶら下げた桃がいて、ゆったりと何かを話していて、騎士道一直線のナイトみたいだったいっちーが、厳格な修道院の聖女か、凜々しいお姫さまみたいに見える。

隣にどんな人がいるかで、こんなにも違って見えるのか。

いっちー自身は何にも変わっていないのに。

「もも?」

 いっちーに気づかれた。

「あー……。何でもない。邪魔した」

 くるりと背を向ける。

あたしが遠慮する必要はないって、それは分かってるんだけど、やっぱり近寄りがたい。

いっちーにはきっともう、鬼退治なんかよりも大切なものが出来てしまったような、そんな気がする。

「待って!」

 いっちーが追いかけてくる。

それを察して、全力で走り出した。

「あたし、なんで逃げてんのー!」

「それはこっちのセリフー!」

 ゆったりとした放課後の、廊下を駆け抜け階段を飛び降りる。

校舎の角を曲がったのに、いっちーはまだ諦めてくれない。

渡り廊下を越え、校舎を移り、とにかく学校中を走りまくって走りまくって、本気の全力疾走に息切れしている。

ようやく足の動きが鈍ってきた。

それはいっちーも同じで、あたしはついに捕まる。