この新学年、新学期の憂鬱はどこから来ているのか。

それははっきりとしていた。

細木だ。

「じゃ、ホームルーム終わりねー」

 それまでの青すぎるクソダサジャージから一新され、また違ったタイプのダサ過ぎるジャージに変わっていた。

今まではずっとおどおどした変なしゃべり方をしていたくせに、人が変わったようにあたしにも平気で話しかけてくる。

「……花田。膝を立てるな、見えてるぞ」

「なにがだよ」

 目を合わせたまま、細木はグッと黙った。

「あたしはいつも、こうやって座ってんの」

「お前は俺のパンツが見たいか」

「んなワケねぇだろ。キモいわ」

「……。だったらお前も俺に見せんな」

 教室を出て行く。

そんな時、いつもなら女の子たちからの「やっぱ見てんじゃん!」とか「テメーが一番キモいわ」とかの罵詈雑言が、細木の背中にこれでもかと浴びせられていたのに、今じゃなんの反応もない。

それでも最初の頃は、あたしをイジられ役と勘違いしていた転入組が笑っていたけど、もうそんなこともなくなってしまった。

あたしは肩越しに小さくなっている転入組に視線を向ける。

「お前らもなんとか言えば」

「もも。ムカつくのは分かるけど、そんな威嚇してやるなよ」

 いっちーが隣でつぶやいた。

さーちゃんはため息をつく。

「私も髪伸ばそっかなー」

「なんで?」

 そんな言葉が彼女の口から出てくるなんて、思いもしなかった。

あたしは本気でびっくりしている。

「別に。みんなに触られるのがウザいし、飽きてきただけ」

「伸ばすの大変そうだね」

 キジがさーちゃんの頭を撫でた。

「ほら、触りおさめだよ」

 いっちーの手もさーちゃんの頭に乗る。

これで触りおさめだなんて、そんなの触りたくもない。

「トイレ行ってくる」

 廊下に出たら、偶然金太郎の背中が見えた。

腰にぶら下げた刀は相変わらずで、女子に取り囲まれている。

転入組の中で一番人気は、人当たりよく物腰も柔らかな金太郎らしい。

「あ、ももちゃんだ」

 そんな金太郎が、あたしに気づいた。

「こんなところで会えるなんて、今日はついてるかも」

 そんなウソ臭いセリフに、騙されるようなあたしじゃないし。

「そりゃどーも。あたしは招き猫かなんかなの?」

 そんなちょっとしたイヤミのつもりも、にこっと笑って受け流す。

「ももちゃんは、学校ではこん棒つけてないんだね」

「今まで学校で出たことはないからね」

 こん棒はいっちーのとまとめて、ロッカーの上に置いてある。

「ねぇ、今日の放課後、何か予定ある?」

「別にないけど」

 あたしはトイレに行くのだ。

「そっか。ちょっと話しがしたいなって……」

「ゴメン、もうトイレ行っとかないと」

 女子トイレがこんなに便利なものだなんて、知らなかったな。

同じクラスの転入女子と目があって、なぜだかペコリと頭を下げられたのに、またムッとする。

あたしはどういう扱いなわけ?