「俺たちも混ぜて。一緒にご飯食べよう!」

 入って来たのは、桃と金太郎と浦島だ。

「え、自分のクラスで食べなよ」

「いーじゃん別に」

 そう言って勝手に机をくっつけ始める。

「ねぇ、食べ終わったらみんなで、学校の案内してよ」

「そういうのはいっちーの役目でしょ」

 彼女のビクリとした目が、ちらりとあたしを見た。

「私の役目って……。もも、みんなで行こうよ」

「えーやだぁ」

 いっちーからの提案に、あたしは即答する。

昼休みはいつも昼寝をすると決めていた。

じゃないと午後の体育のあとは、寝るしか出来ない。

「どっかで剣の練習でもすんの?」

 桃のお昼はあたしと同じどっかで買ってきた何か系だけど、金太郎と浦島は普通にお弁当だった。

浦島はふとさーちゃんに視線を移す。

「頭、触っていい?」

「は?」

 浦島の手が伸びる。

さーちゃんは無言のままじっと固まってしまった。

そんな彼女の手前で、浦島は一旦動きを止めたけど、逃げもせず拒否もしなかった坊主頭にそっと手を添えた。

「この手触り、一回確認してみたかったんだよね」

 そう言ってなで回す。

「すっげー。やっぱ男のとは違うな」

 浦島の手が引っ込んだ。

さーちゃんは彼を見上げる。

彼女がキレ散らかし始めそうな予感がして、あたしはとっさに、さーちゃんの頭へ抱きついた。

「分かる! いや、男の坊主頭をなでたことはないけど、短い髪って下から逆なですると気持ちいいよね」

 さーちゃんの頭は女の子の柔らかい髪質の上に、同じ長さでびっしりそろっているから、そんじょそこらの毛並みとはワケが違うのだ。

彼女はため息をつく。

「あんたたちも、いっつも触ってくるもんね」

 あたしはさーちゃんの、キンッキンの頭をなで回す。

その隣でキジは、真剣な顔つきをしていた。

「私も好き」

 キジもさーちゃんの頭を撫でまわす。

さーちゃんの頬は、わずかに赤くなった。

「さー学校回るか!」

「さー昼寝すっか!」

 あたしと桃の声が同時に重なった。

「あたしは寝るからね。つーかこないだの学祭で、学校回ったでしょ」

「学祭と普段は違うって、そん時も言ってただろ」

 あたしは桃を無視して、いっちーに視線を向ける。

「いっちーに頼みなよ」

「……う、うん」

 ほら大人しくなった。ど

うせ桃は、いっちーがいいクセに。

いや、嫌みとか嫉妬とかじゃ全然なくて。

「ももは来ないの?」

 金太郎が割って入る。

「あ、もしかして鬼退治の自主練?」

 あたしは立ち上がった。

「別に。じゃ、お先に」

 数ヶ月前まで、いつもいっちーと二人でだべっていた場所に行く。

その高い城壁にもたれて、どこまでものんびりできていたのに、その壁はもうない。

あみあみフェンスでは、向こうからもこっちが丸見えだった。

通りがかった知らないじいさんと目があう。

「おいコラ、サボってんじゃねーぞ。しっかり勉強せぇ」

 舌打ちまでされた。

今は昼休みだっつーの。

せっかく天気もよくなって、暖かくなってきたのに、もうそこにあたしの居場所はない。

仕方なく別の場所に移動しようと振り向いた時、視界にみんなの姿が目に入った。

いっちーが桃たちと一緒に歩いている。

そこにはキジとさーちゃんもいて、金太郎と浦島も楽しそうだ。

自分でも、どうしてそうしたのか分からない。

彼女たちに見つからないよう、陰にかくれてこっそり移動する。

こんなんじゃ、今日の昼寝は無理だな。

あたしは7時間目の授業をあきらめた。