百年以上続いてきた学校の歴史が大きく変わる、記念すべき年度の始まりだった。

共学化新年を祝って植えられた桜の若木は、チラチラとみずみずしい花をつけている。

最高学年になったあたしたちは、新入生を迎える準備にかり出されていた。

 女子の制服はそのままで、そのデザインに合わせた男子の制服が登校してくる。

真新しいそれに身を包み、生まれ変わった校舎に入り込んだそれは、きっと春先にふさわしい新鮮な空気を運んで来ているのだろう。

「もも。あのさ……」

 新入生の受付案内をしているあたしの横で、いっちーは言った。

「ん? なに?」

「……。私のこと、嫌いにならないでね」

「どうして?」

 流れてくる新入生たちの波が、急に騒がしくなった。

一段と目を引くその中心に、桃たちがいる。

「あ、一花とももちゃんだ。すげー。早速一番に会えた」

 そう言って桃はうれしそうに笑う。

その横には当然のように金太郎と浦島もいた。

「マジで転入してきたの!」

「まぁ色々、優遇制度があったからね。瑶林といえば、人気の伝統校だし」

 桃はいっちーを見て、にっこりと微笑んだ。

「同じ学校になれてうれしい。これからよろしくね、先輩!」

 いつまでたっても何だかんだ言って、桃はいっちーから離れようとしない。

しびれを切らした金太郎と浦島がようやく桃を引きずって、入学式の会場となっているホールへ向かう。

桃はそれでもまだこっちに向かって手を振り続けていた。

「なんで先輩? 同級生だよね」

「学校在学歴が長いからだって、言ってた」

 いっちーの頬が少し赤くなって、ぼそりとつぶやく。

「バカだから許してやって」

 他にも男女ともに転入組はそこそこいて、突然クラスが2つ分増えた。

全転入組の割合を見ると、男子は女子の3分の1くらい。

新学期は、はーちゃんとしーちゃんとはクラスが分かれちゃったけど、いっちーとさーちゃん、キジとは同じクラスになった。

見慣れた女の子ばかりの空間に、見知らぬ男子がいるのは違和感しかないけど、まぁ気にならないと言えば、正直気にはならない。

「担任誰になるかなー」

 新担任の発表は、朝のホームルームに登場してくるまで分からない。

ざわざわと落ち着かない教室の外で、複数の足音が聞こえた。

この中の誰かが扉を開けてこの教室に入ってくる。

入って来たソイツがこのクラスの担任だ。

「おはようございます!」

 姿を見せたその人物の、正体を知っている在校組の女子たちは大騒ぎになった。

「うっそ、マジかよ。もしかして初担任がうちらってこと?」

「最悪じゃん!」

「コイツが『先生』とか出来んのかよ」

 その新担任は、教卓にドンと手をついた。

「在校組は黙れ。転入生、入学おめでとう」

 細木はいつものクソダサジャージではなくて、安っぽいスーツを着ていた。

「うっざ!」

「そこ。花田もも。ウザいとか言うな」

「あ?」

 一部でクスクスと小さな笑みがこぼれる。

誰だ笑ってんの? 

細木の正体を知っているクラスの8割が、そっちを振り返った。

とたんに見られた転入組は黙る。

いつもならここで、クラス中が細木に向かって非難ごうごうの嵐になるのに……。

「みんな、仲良くな」

 昼休みになった。

うちのクラスの転入組は、男女合わせて7人ぐらいか? 

互いに知り合いみたいで、比較的仲良くしている。

「一緒に食べよう」

 あたしはいっちーとさーちゃん、キジと机を合わせる。

いっちーはいつも、お兄ちゃんや家族の分の弁当を手作りしてくるので、ちゃんとしたやつ。

キジはお母さんが作ってくれるみたい。

あたしとさーちゃんはどっかで買ってきた何か。