距離をとる。

間髪入れず踏み込んだあたしに、細木はこん棒で応戦する。

「誰がお前らなんかと鬼退治するか!」

 刀身と刀身がぶつかり合う。

交差するそれを挟んで、あたしと細木はギリギリとにらみ合った。

「俺はなぁ、この学校が共学化して、男子が入ってくることだけを生きがいに頑張ってんだよ」

「何だよそれ……」

「お前こそ俺の邪魔をするな。鬼退治サークルが存続するなら、お前にとっても悪い話しじゃないだろ」

 力で押し戻される。

あたしが後ろに引いたとたん、細木はやっぱりこん棒を投げ捨てパッと背を向けた。

「おぉ! よく見ればここにもお友達が!」

 金太郎と浦島に駆け寄り、勝手に手を取るとぶんぶんと握手でそれを振り回す。

「君も! 君も! 名前は?」

「おいっ! 勝負のじゃなすんな!」

「お前こそ俺の勝負の邪魔すんな!」

 細木の大声に、びっくりする。

コイツが今までにこんな大きな声を出したのを、聞いたことがない。

つーかこんな声出せたんだ。

細木は落ちていたこん棒をあたしに突きつけた。

「君たちはここで、サークル部員の勧誘を続けていなさい。僕は彼らを案内してくるから」

 細木は持っていたこん棒を横にすると、ぐいぐい押しつけてくる。

その異様な気迫に押されて、あたしはついそれを受け取ってしまった。

「じゃ。余計な問題起こすなよ」

 背を向けたとたん、突然の上機嫌に戻った細木は、桃たち三人を引き連れてどこかへ行ってしまった。

きっと転入案内のコーナーにでも行くんだろう。

「なんだあいつ!」

 あたしは最高にイライラしていた。

普段の練習とかには、全く興味ないクセに! 

校内で会っても目も合わさないクセに! 

そもそも細木の顔を見るのは、学祭の許可をもらいに行って以来だ。

「いっちー! あたしと模擬戦しよう!」

 彼女はすらりと腰のこん棒を抜いた。

あたしが打ちかかると、それに応じる。

いつも以上に熱が入った。

流暢な剣さばきに、結んだ彼女の長い髪がなびく。

ガツガツと腕に伝わる振動に、あたし自身がしびれていた。

何に対して腹が立つのか、どうしてこんなにイライラしているのか、そんなことを今だけは考えたくもない。

いっちーの繰り出す素早い剣さばきに、無心で合わせる。

繰り出される剣先を避け、また打ち付ける。

踏み込む動きに一切の無駄なんてない。

ぶつかっては離れ、離れてはまたぶつかり合う。

あたしはただただいっちーと打ち合っている。

一呼吸置いた時、ふいに拍手が沸き起こった。

いつの間にか辺りには人だかりが出来ていて、あたしたちを取り囲んでいた。

それに気づいて、急に恥ずかしくなる。

いっちーの顔も真っ赤だ。

「あ、ありがとうございました!」

 二人で一礼をしてから、あわててその場を逃げ出した。

「なんか突然で、びっくりしちゃった」

「私も」

 どこへ逃げ込もうか。

校舎内に駆け込んで、ようやく一息つく。

「なんか飲む?」

「う、うん。ももは?」

「あたしもなんか飲みたい」

 目の前の教室で屋台が出ていた、よく分からないミックスジュースを買う。

正義のイエローダイヤと愛のレッドルビーってなんだ? 

どうやら黄色系と赤系の市販のジュースをいくつかミックスしたものらしい。

「あ、知らない味だけど悪くないよ」

「うん。不味くはないね。むしろアレとアレを混ぜたらこんな感じになるんだって感じ」

 見慣れた校内を行き交う沢山の見知らぬ人たちの前で、あたしたちは色んなものがごちゃ混ぜになった不思議なジュースを流し込む。

ようやく落ち着いたところで、生徒会本部役員のはーちゃんとしーちゃんに出くわした。

「もも!」

「どうしたの? そんなに慌てて」

 はーとしーは慎重に辺りを見渡すと、小声でささやく。

「鬼が出たっぽい」

 マジな感じの様子に、空気が凍りつく。

「ホントに?」

 二人はうなずいた。